2021 Fiscal Year Research-status Report
北アイルランドにおける詩人のアイデンティティ:ジョン・モンタギューを中心に
Project/Area Number |
21K12954
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Research Institution | Kyoto Prefectural University |
Principal Investigator |
西谷 茉莉子 京都府立大学, 文学部, 准教授 (90756355)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 北アイルランド / アルスター / ジョン・モンタギュー / アイデンティティ / アイルランド語 / アルスター・スコッツ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の目的は、住民の帰属意識がイギリスとアイルランドの間で二分化し、さらにアルスター・スコッツのバックグラウンドが混在する複雑な社会構造を持つ北アイルランドにゆかりのある詩人たちが、自身のアイデンティティをどのように模索したか示すことである。北アイルランドを詩の主題にすることを意識的に試みたジョン・モンタギューを主軸として、1950年代から1970年代前半にかけての北アイルランドにまつわる文学的活動や作品に表出される詩人のアイデンティティの諸相を明らかにすることを目指している。 初年度にあたる2021年度は、本研究課題の目的を遂行するための主な分析対象である、モンタギューの長編連作詩The Rough Field(1972)の精読と、本作に関連する調査を行った。当初は、本作に表されるアルスターとそこに表出されるモンタギューの公/私のアイデンティティの考察を進めていたが、その過程で主題を絞り込み、彼のアイルランド語に対する姿勢へと焦点化するに至った。具体的には、The Rough Fieldと同時期に発表した翻訳詩集A Fair House(1972)の序文、その他アイルランド語についての記述が見られる散文等を吟味し、彼が北アイルランドに見出した自らのアイデンティティと言語事情の関連を明らかにした。さらに、その考察結果に照らしながら、The Rough Fieldに収められた、アイルランド語を主題に扱う作品を分析した。2021年12月、京都府立大学英文学会における講演で研究成果を発表し、現在、論文投稿のための準備を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は概ね当初の計画通りに進んでいると言える。初年度に当たる今年度、アルスター史や系譜といった複数のテーマが交錯し、モダニズム的な難解さを備えたテクストであるジョン・モンタギューのThe Rough Fieldの精読を貫徹した意義は大きく、今後の研究の発展の足掛かりとなることが期待できる。 さらに、モンタギューの北アイルランド詩人としての公/私のアイデンティティというテーマを、言語とアイデンティティの問題を重点的に扱うことによって掘り下げた。2021年12月、その研究成果をまとめて口頭発表を行ったが、その際明らかになった課題に取り組み、論を補正しつつ、学術論文を執筆中である。 このように、初年度は基礎固めに注力し、論文投稿に至るまでのペースで研究を進めることができなかったことは反省すべきであるが、次年度以降の研究の発展の礎を築くことができたと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
二年目に当たる2022年度は、初年度の成果を基に、北アイルランドのプロテスタントとカトリックの関係、それぞれに帰属意識を持つ詩人のアイデンティティの在り方へと考察を広げたい。そのために、ジョン・モンタギューと、同時代の北アイルランド出身の詩人であるジョン・ヒューイットとシェイマス・ヒーニーとの交流、およびそれらの詩人たちの作品間の影響関係に着目し、より幅広い視座から北アイルランドにおけるアイデンティティの問題を扱う。具体的には、The Rough Fieldにおけるプロテスタントの表象、1960年代後半にモンタギューとヒューイットが行ったリーディングツアー、モンタギューとヒ―ニーの地名に対する感覚などを考察対象とする。 また、当初の計画通り、第二次世界大戦およびその余波が、北アイルランド詩人のアイデンティティに及ぼした影響について考える。特に、The Rough Fieldにおける、アルスターの近代化の描出を、当時の歴史的・社会的文脈をふまえて読み解きたい。 2022年度は、状況が許す限り、The State University of NY, Buffaloが所蔵するJohn Montague Collectionにてモンタギューの未刊行資料を閲覧・収集することを予定している。それによって、資料面での不足を補い、研究の精度を上げることが期待される。
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