2022 Fiscal Year Research-status Report
北アイルランドにおける詩人のアイデンティティ:ジョン・モンタギューを中心に
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21K12954
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Research Institution | Kyoto Prefectural University |
Principal Investigator |
西谷 茉莉子 京都府立大学, 文学部, 准教授 (90756355)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 北アイルランド / アイルランド / アルスター / ジョン・モンタギュー / アイルランド語 / アイデンティティ |
Outline of Annual Research Achievements |
研究年度二年目に当たる2022年度は、初年度のいわば基礎固めの研究をもとに二本の論稿をまとめた。一本目は昨年度行った講演の発表内容に基づくもので、ジョン・モンタギューの代表作The Rough Fieldやその他の散文を吟味し、彼のアイデンティティと言語事情の関連を明らかにしたうえで、The Rough Fieldにおけるアイルランド語を扱った詩の解釈を試みた。英語とアイルランド語の完全な二言語話者ではないモンタギューの文学的可動域は限られてはいるが、アイルランド語がアイルランド詩の遺産であると確信し, それをゲールタハト出身者以外にも受け継ぐことができるということを提示したこと、そして鋭い言語感覚と技巧でもってその遺産を英語の詩の中に受け継ぐ手立てを示したことが、彼の最大の功績であると結論づけた。 さらにその考察を発展させ、北アイルランドのプロテスタントとカトリックの関係、および詩人のアイデンティティの在り方の問題に取り組み、論稿をまとめた。The Rough Fieldを主な分析対象とし、モンタギューが、自身のカトリック・アルスターのアイデンティティを足場にしながら、アルスターにおける入植の歴史がもたらした交雑性や分断という諸相を捉えた様を示した。また、北アイルランド紛争における両宗派間の緊張感の高まりの中で、プロテスタント出身の詩人であるジョン・ヒューイットとともにモンタギューが行ったリーディングツアーの意義に着目し、より広い視野から北アイルランドにおけるアイデンティティの問題を扱った。 2022年5月、佐藤亨氏(青山学院大学教授)を招聘し、北アイルランドの詩人でモンタギューともつながりの深いシェイマス・ヒ―ニーに関する話を伺った経験が、研究の視野を広げることにつながった。その一部始終は、京都府立大学においてセミナー形式で公開した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
論文執筆を二本行い、学会誌における公表、および共著という形で公表のめどが立ったことから、一定の成果があったと言える。初年度におけるモンタギューのThe Rough Fieldのテクスト精読の成果を生かしながら、本研究課題の核心的な問題に真っ向から取り組むことができた。しかし、当初研究対象として挙げていた、北アイルランドにおける第二次世界大戦の影響やその余波、および近代化というテーマについては、十分に掘り下げることができなかった。 また、研究計画では、2022年度は、The State University of NY, Buffaloが所蔵するJohn Montague Collectionにてモンタギューの未刊行資料を閲覧・収集することを予定していたが、新型コロナウイルス感染の影響により計画を断念した。その二点において、当初の計画通りに研究が進んだとは言い難い状況にある。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の状況をふまえ、研究期間の延長を申請した。最終年度となる2023年度は、北アイルランドにおける第二次世界大戦時の影響とその余波、およびそれが一因となった近代化を、アイデンティティとの関わりから考察することを目標とする。当時の社会的、歴史的、文学史的な背景を踏まえながら、モンタギューのThe Rough Field、およびその他の作品から読み解く。具体的には、The Rough Fieldの第7部、第8部の分析を中心に進める予定である。 また、The State University of NY, Buffaloが所蔵するJohn Montague Collectionにおける未刊行資料の閲覧・収集を通じて、資料面での不足を補い、研究の精度を上げたい。そのうえで、学会や研究会での口頭発表を行い、本テーマで論稿をまとめる足掛かりとする。
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Causes of Carryover |
The State University of NY, Buffaloが所蔵するJohn Montague Collectionにてモンタギューの未刊行資料を閲覧・収集することを予定していたが、新型コロナウイルス感染の影響で計画を断念したため。次年度には調査に行く予定をしている。
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