2022 Fiscal Year Research-status Report
19世紀末から20世紀前半のベルギーにおける文学・美術の動向と社会主義との関連
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21K12965
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Research Institution | Jichi Medical University |
Principal Investigator |
吹田 映子 自治医科大学, 医学部, 助教 (10738925)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | フランス・マズレール |
Outline of Annual Research Achievements |
令和4(2022)年度は、新型コロナウイルス感染症に伴う学内規則に従ってベルギーでの調査を見合わせ、版画家のフランス・マズレール(1889-1972)について国内で調査を行った。マズレールは19世紀末から20世紀前半のベルギーにおいて社会主義の精神を版画を通じて表現した人物だが、少なくとも西洋美術史の文脈においてマズレールが話題になることは国内外を問わずほとんどないように見受けられる。国内で調査をしてみて分かったのは、太平洋戦争直後の日本の美術雑誌において、マズレールのことが度々紹介されていたという事実である。上述の通り、マズレールが話題にされることは国内外を問わずほとんどないように見受けられる現状と比較すると、およそ80年前の状況が興味深く思われた。研究代表者がこれまでに確認したのは戦後日本で刊行された美術雑誌に限られるが、マズレールがそこで度々取り上げられた背景には、魯迅(1881-1936)がマズレールの画集を中国で紹介したことがあると考えられた。以上が令和4(2022)年度の研究成果であるが、以後このような見通しに基づいて、マズレールが日本で紹介されるに至った経緯を明らかにしたい。一見遠回りに見える手法ではあるが、19世紀末から20世紀前半のベルギーにおける文学・美術の動向を社会主義との関連から明らかにするという本研究の目的を果たすに当たり、物事をより立体的に、かつ効率的に明らかにしうる手法であると思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「研究実績の概要」でも述べたように、新型コロナウイルス感染症に伴う行動制限により、ベルギーでの調査がこれまでの二年間に行うことができなかった。そのため、当初の計画をそのまま遂行することはできていないが、代替案として国内調査に重点を置いた結果、フランス・マズレールの活動およびベルギー国内外への作品の伝播に焦点を当てることで、より効果的なアプローチが期待できるという見通しにたどり着いた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、フランス・マズレールの活動、およびベルギー国内外への彼の作品の伝播に焦点を当てて研究を進める。その際、新型コロナウイルス感染症に伴う行動制限が今後も続く可能性を考慮し、マズレールが日本で紹介されるに至った経緯を明らかにすることを第一の手がかりとして進めてゆく。ただし、マズレールに関する文献にはドイツ語やオランダ語によるものが比較的多く、研究代表者が一人で調査することは困難であるため、当該語学に堪能な研究協力者に協力を依頼して進めるつもりである。また、当面はマズレールのことに焦点を絞るものの、ジョルジュ・エークハウト等、これまでに調査を進めてきた作家や画家についても引き続き情報収集を行い、状況が許せばベルギーでの調査も行う。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じたのは、新型コロナウイルス感染症に伴う行動制限により、海外調査が行えなかったことによる。次年度はベルギーでの調査を実施する予定であるため、その渡航費に充てる。
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