2021 Fiscal Year Research-status Report
Perceptual restoration in the first and second language
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21K13006
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
石田 真子 慶應義塾大学, 理工学部(日吉), 講師 (00894479)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | Perceptual restoration |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、第一言語・第二言語における知覚的補完能力(=人間の脳が崩れた情報を補完して理解する能力)を調べることにある。特に、英語の母語話者や日本語の母語話者の音声知覚過程に着目し、母語の異なる音声聴取者が、物理的に存在しない音声や音響的に劣化した音声を、どのように知覚上で補って理解するのかを調べることにある。
2021年度は、日本語母語話者の第一言語(=日本語)・第二言語(=英語)における知覚的補完について、音声聴取実験の結果を解析しながら、考察した。実験では、音声波形(例: 200ms)を音声の開始地点から一定の時間区間で区切り(例:100ms)、それぞれの区間(例:0-100, 100-200)を時間軸上で反転させた「時間反転音声」(例:100-0-200-100)を作成した。その際、一つの音声(有意味語・無意味語)に対して、6種類の時間反転音声を作成し(10, 30, 50, 70, 90, or 110 msごとに時間反転)、その音声明瞭度を音声知覚実験を行って調べた。その結果、時間反転音声の明瞭度は、時間反転区間が長くなるにつれて低くなることが確認された。また、日本語母語話者は、日本語の時間反転音声を、英語の時間反転音声よりもよく理解することがわかった(=母語の優位性)。尚、日本語と英語において、「有意味語」は「無意味語」よりもよく理解されたが、単語を構成する音素の割合がことばの理解に影響した(=摩擦音の多い単語が閉鎖音の多い単語よりもよく理解された)のは、日本語で時間反転音声を聞いた場合のみであった。尚、過去の実験結果と照らし合わせると、全体的に日本語の時間反転音声は、英語の時間反転音声よりも音声明瞭度が高いことが示唆され、日本語の言語構造(V・CV構造)が知覚的補完のしやすさに寄与している可能性が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、「日本語母語話者」に着目し、日本語母語話者が「第一言語・第二言語」をどのように知覚的に補完しながら聞き、理解しているのか、について考察した。特に、日本語母語話者(=同一被験者)が、異なる2つの言語をどのように知覚的補完するのかを、「時間反転音声」を用いて探れたことは、今後の研究の方向性を考える上でも有意義であった。
これまでの研究では、「英語の母語話者」と「英語の第二言語習得者」という2つの異なる言語グループに対して、「英語の時間反転音声」を聞いてもらう、という音声知覚実験を行うことが多かったが、今回の研究では、「日本語母語話者」という1つの言語グループに対して、「日本語の時間反転音声」と「英語の時間反転音声」の2種類の音声を聞いてもらう、という音声知覚実験を行った。そして、日本語母語話者が「(元々の時間配列が存在しない)時間反転音声」をどのように知覚上で補って聞いているのかを調べた。その結果、「日本語母語話者が、第一言語である日本語で時間反転音声を聞いた時に行う知覚的補完」と「日本語母語話者が、第二言語である英語で時間反転音声を聞いた時に行う知覚的補完」の違いを、少しだけ垣間見ることが出来た。
即ち、母語において「時間反転音声」を聞いた場合は、語彙情報や音素情報等の言語学的知識・経験を総動員して、音声を補いながら聞くことができるが、第二言語においては、語彙情報を頼りにして、音声を補いながら聞くことが示された。また、「日本語母語話者の第一言語における知覚的補完」と「英語母語話者の第一言語における知覚的補完」(過去の実験データ)を比較したところ、英語・日本語の言語構造が知覚的補完に与える影響が示された。知覚的補完能力と言語構造の関係性については、論文として纏め、発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで、英語母語話者と日本語母語話者の知覚的補完能力(=人間の脳が崩れた情報を補完して理解する能力)について、「時間反転音声」を用いて調べてきているが、まだ解析できていない実験データが複数あるため、それらの解析を進めたい。また、これまでの研究では、「英語の時間反転音声(有意味語・無意味語)」の明瞭度に着目することが多かったが、「日本語の時間反転音声(有意味語・無意味語)」の明瞭度についても、日本語の言語構造(V・CV構造)を踏まえながら、解析を進めたい。
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Causes of Carryover |
次年度使用が生じた理由としては、今年度、論文投稿料として計上していた金額を、論文執筆・データ分析のための書籍・物品購入に使用し、差額が生じたためです。尚、翌年度分として請求した助成金と合わせた使用計画としては、2022年度の研究活動に関連したデータ解析、論文執筆、物品購入、渡航費等の費用の一部として使用することが見込まれます。
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