2022 Fiscal Year Research-status Report
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21K13124
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
土肥 歩 同志社大学, 文学部, 助教 (10731870)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 宣教師 / 地域社会 / 太平天国 / 広東 / キリスト教 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、19世紀における宣教師の言説分析を行うことを目的としているが、研究を進める中でそもそも外国人は中国キリスト教伝道やキリスト教と関係する人物をどのように描写するのか、より周辺的な知識を深めなければならないと認識するに至った。そのため、より幅広い知識を深めるべく、以下の通りに研究課題を進めた。 まず、『中国研究月報』(第76巻第8号、2022年8月、30‐32頁)に「曺貞恩『近代中国のプロテスタント医療伝道』」についての書評を執筆した。同書は、19世紀から20世紀中葉にかけての医療伝道について扱っており、同時期の宣教師と中国人の関係について理解を深めることができた。 次に、8月23日・24日に行われた2022年度明清史夏合宿で「辛亥革命下の農村:広東省花県を事例として」と題して学会報告を行った。この報告では、1911年の武昌蜂起以降の政治的変動が農村社会にどのような影響を与えたのか、キリスト教伝道関係の文書と中国語史料を組み合わせることで分析を加えた。この結果、革命政権と農村地域のキリスト教コミュニティの関係について理解を深めた。この際、報告者が分析の事例としたのは、太平天国の指導者である洪秀全の出生地の広東省花県であった。この学会報告の準備および発表を通じて、太平天国(もしくは上帝会)を生み出した地域的性格に理解を深めた。 最後に、『中国女性史研究』第32号に「英語著作にみえる孫文と宋慶齢の「結婚」:ポール・ラインバーガーを中心とした予備的考察」と題した研究ノートを発表した。この研究ノートを通じて西洋人が中国人のキリスト教受容や中国の「革命」をどのように描写したのか、という論点で多くの知見を得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記を選択した理由は3点挙げられる。 1点目に負担軽減である。2022年度は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大が続いた一年だったことは紛れもない事実である。しかし、大学では対面授業(面接授業)が次第に再開され、オンライン授業に関する動画編集や事前準備などの負担が大幅に軽減された。 2点目に、研究活動の蓄積である。上述の点に関連して報告者は2021年よりも研究に当てる時間を大幅に確保することができた。そのため、本研究課題の遂行に何が必要なのか、具体的に考える余裕が生じた。 3点目に、オンライン環境への適応である。2022年度は報告者の中でオンラインでのシンポジウムへの参加方法について理解を深めた。そして、積極的にオンライン環境に参加することで(もしくは2020年度と2021年度の教育活動を通じて習得したノウハウを用いることで)、新型コロナ以前とほとんど変わらずに研究成果の発信を行えるようになったのではないかと感じた。
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Strategy for Future Research Activity |
上述の研究動向を通じて、最終年度の研究に関しては、研究方針の微調整を加えつつ、以下3点にしぼって取り組む必要があるだろう。 まず、歴史史料の積極的な発信である。なお、上述の研究業績と並行して、1821年から伝道団体アメリカン・ボードが発行していた雑誌『ミッショナリー・ヘラルド(the Missionary Herald)』誌の中国関連記事の目録作成作業を進めた。この作業は2020年末から取りかかっていたが、2023年度には1821年から1840年までの目録を学術雑誌に投稿できるよう準備している。この作業を継続して行えば、伝道団体が発行していた雑誌に掲載される中国関連情報の史料的性格を把握することが可能となり、アンドリュー・ハッパーの記事を今後読み解くうえでの一助となるだろう。 次に、アンドリュー・ハッパー自身の記事の紹介である。今年度は収集した史料を読み込み、彼の言説分析を行いたいと考えている。ただし、現時点では何らかの議論を重ねるより、代表的な言説を紹介することも研究者に有意義ではないかと考えている。 最後に、20世紀の宣教師が太平天国をどのように認識していたか、という論点である。これに関しては、本研究課題以前に取り組んだことがあったものの、2022年度の研究活動を進めるうちに、中国語新聞から関連記事を多数確認することが出来た。これは当初の研究計画では予想していなかったことであるが、新たな史実を提示できると判断し、2023年度もしくはそれ以降に文書としてまとめたいと考えている。 以上、本年度の研究は本研究課題の周辺的な知識を深める結果になったといえるかもしれない。しかし、いずれの研究活動も報告者にとっては大きなプラスとなったことは間違いない。本研究課題については、2022年度に得られた知見を活かしつつ、次年度も引き続き取り組んでいきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
各種文献を計画的に購入したものの、次年度使用額が生じてしまった。その理由を挙げると、年度をまたぐ文章執筆に時間を費やしてしまったこと、学内の各種業務に想定外の時間を要したこと、さらに申請者自身が年度末に一時期体調を崩してしまったことなどである。 次年度使用額分は図書購入費に充てる予定である。
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