2021 Fiscal Year Research-status Report
Research on the production and circulation of Kofun-period metal weapons using advanced scientific instruments
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21K13136
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
RYAN JOSEPH 岡山大学, 社会文化科学学域, 特任助教 (40878469)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 鉄製武器 / 金属製武器 / 弥生時代 / 古墳時代 / 生産体制 / 流通方式 / 国家形成 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度である2021年度は、古墳出現期における鉄製武器の製作集団を抽出し、その生産と流通の実態を解明する上で必要な基礎的データを収集するため、ヤリや鉄鏃の糸巻きを対象にデジタルマイクロスコープによる観察を実施した。 まず、岡山県および兵庫県を中心に、ヤリや鉄鏃に巻かれている糸の素材、撚りの有無・回転方向、幅を観察・計測し、武器の型式ごと、そして古墳ごとの様子を確認した。その結果、①ヤリなど同一種類の器物での糸巻きの様子からみた生産体制の集約度合い、②ヤリと鏃(または漁具などの生産用具)といった異なる種類の器物を横断して、糸巻きの様子からみた器物生産諸部門の関連性という2つの課題に実証的に迫り得る見通しを得た。とくにヤリは、小型墳墓の単数副葬例に加え、三角縁神獣鏡などが伴う大型前方後円墳の複数副葬例もあるので、階層性・地域性あるいは中心周辺関係という多様な社会関係を貫く比較が可能となった。とりわけ複数副葬の場合、糸巻きに多様性が認められることから、複数回にわたる複雑な入手契機があった可能性が考えられる。 また、木製把の内部構造を詳細に検討するため、岡山県女男岩墳丘墓から出土したヤリや浦間茶臼山古墳から出土した鉄剣のX線CT調査を実施した。さらに、浦間茶臼山古墳の鉄鏃は、巻かれている複数種類の繊維巻きの遺存状態が良好であるため、各型式の鉄鏃と繊維巻きの種類を対応させるため、X線CT調査を通じて生産・流通単位の抽出作業を進めた。 このように、武器の生産から副葬に至る過程をより実証的に復元できる手掛かりを得ている。 そのほか、状態良好なヤリを対象として蛍光X線分析で顔料の有無を確認し、装飾の様子を検討した。さらにSfM-MVSを活用した武器の三次元モデルを構築し、伝統的考古学で用いる手書き実測図では十分表現できない多様な糸の有効な資料提示法の開拓に努めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、西日本各地の古墳出土ヤリ・鏃に加え、北部九州の弥生時代中期の糸巻き鉄剣を対象とした資料調査を積極的に実施する予定であったが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により、いくつかの調査が延期・中止となった。そのため調査対象地域を岡山県および隣県の兵庫県に変更し、両県出土資料を重点的に調査することで分析視点と方法の有効性を確認し、疫禍明けに広域の資料を分析することとした。 このように、計画変更を余儀なくされたものの観察を行なったヤリの中に多様な型式の資料が含まれており、かつそれらを詳しく分析することができた。これまでの分析により、ヤリ型式ごとの生産体制の変遷に関する見通しを立てることができ、方法論をめぐる諸課題も明らかにすることができている。さらに、鉄本体と有機物との関係についてX線CT調査に基づいた系統的整理も進めることができた点なども、研究の進展として評価できる。2022年度以降の調査と分析を飛躍的に進めるための基礎的成果を得ていると評価することができよう。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の進捗状況を踏まえ、2022年度は資料調査の地域を広げ、弥生時代~古墳時代前期における武器の生産・流通体制とその変化を明らかにする。その分析を通じて、ヤマト政権の成立過程と政権の政治的戦略を考察する。具体的には、下記の3点の調査を実施し、その分析結果を通じて上記の考察を行なう。 ①弥生時代中期~終末期における武器の糸巻き調査。②古墳時代初頭に属する最古型式ヤリ(糸巻底辺型)の糸巻きの観察。③古墳時代前期に属する武器の糸巻きにみる系統性の検討。 古墳出現期に創出される、精美な糸巻きをもつヤリは初期ヤマト政権のシンボルともいえる。そのヤリの創出ならびに製作と配布の裏側にはヤマト政権の成立過程を考察する鍵が隠されている。この課題を解決するため、まず①によって、弥生時代中期~終末期における糸巻き鉄剣の諸属性を明らかにしつつ、その生産・流通体制を解明する。その成果と②の成果を比較し、最古型式のヤリの製作技術の系譜を解明する。 その上で奈良盆地所在の前方後円墳から出土するヤリ・鏃の糸巻きと、他地域出土資料を比較する(③)。畿内中枢部にみられる資料の系統を正しく整理し、地域の古墳から出土するヤリ・鏃と比較して、それの生産・流通体制を解明する。この分析を通じて、ヤリ・鏃の配布を通じた初期ヤマト政権の政治的戦略を検討する。 なお、ハンドヘルド蛍光X線分析装置による分析に耐えうる資料が多くなく、悉皆的な検討が困難であることが2021年度の調査で明らかとなったため、蛍光X線分析を補助的な調査法とし、デジタルマイクロスコープおよびX線CTによる分析を中心的な調査法として据えておく予定である。
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Causes of Carryover |
今年度は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により、いくつかの調査が延期・中止となったので、調査対象地域を岡山県および隣県の兵庫県に変更したため、当初計上していた旅費を繰り越すこととなった。次年度は、次年度の研究計画として予定している資料調査およびX線CT調査を計画通り実施するとともに、調査対象地域を広げ、日本列島各地の実物資料観察を悉皆的に遂行することにより、「次年度使用額」を執行する予定である。
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Research Products
(2 results)