2021 Fiscal Year Research-status Report
Establishment of preventive preservation technology based on scientific deterioration prediction of Japanese hanging scrolls
Project/Area Number |
21K13142
|
Research Institution | Tokyo Gakugei University |
Principal Investigator |
李 ガン 東京学芸大学, 教育学部, 研究員 (00807547)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 装こう文化財 / 掛軸日本画 / 画像相関法 / 非破壊分析 / 歪み / 応力 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本の装こう文化財は、絵や書が直接描かれる本紙とそれを保護し装飾する装丁によって構成され、掛軸などの形態を取り、鑑賞や保管にも優れる。掛軸では本紙の上に滲み止めである礬砂溶液を引き、絵具を使って彩色を表現する。そして、本紙を支えるためにその裏面に小麦澱粉から調製した糊を用いて3~4種類の裏打ち紙を順次貼るが、直接接着しているという点では肌裏紙が本紙の耐久性に大きな影響を与える。しかし、構成材料の劣化、利用頻度、保管環境の変動によっては経年劣化の過程で本紙に物理的な力が不均一に加わり、物理化学的な劣化が進む。その結果、皺や折れなどの変形が生じ、絵具を剥落させ、変色も起きるため、鑑賞や保管に不具合が生じ、寿命も短くなる。本研究では、本紙における物理的変形について面内の歪み分布に着目し、紙表面にある特徴的パターンが変形後にどれだけ動いたかを探し当てる画像相関法を用いて目に見えないレベルでの変位を細かく計測し、非破壊的、定量的に評価し、その変化挙動を予測することを目標とする。それによって、その後の保存処置内容や保管環境改善の計画を提案でき、不可逆的な損傷の拡大を抑制できることを期待している。今年度は、掛軸日本画の試料として本紙と肌裏紙の複合体を調製し、その製作に使用される材料 (礬砂と新糊)の濃度、相対湿度及び劣化期間などの条件を変え、掛軸の使用時を想定して試料の巻き戻しを繰り返し行った際に可視的な破壊が起きるまでの歪み変化を計測し、上記条件による歪みの生成程度を確認した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
紙試料専用の巻き戻し試験として確立された規格がないため、掛軸試料を想定した自動巻き戻し試験装置の製作に手間を取った。また、調製した試料の巻き戻しを繰り返し行い、計測に適切な大きさの歪みを生じさせるための理想的な条件として、試料のサイズ、劣化期間、巻軸棒の厚み、巻き戻し回数などを決めるための予備実験に手間を取った。
|
Strategy for Future Research Activity |
実際の掛軸試料に対して画像相関法を応用し、物理的変形を把握できるように、本紙における図柄や紙の抄紙時に生成される簾目などをパターンとして認識できる確率を上げるための条件を検討する。掛軸は製作過程で何等かの理由で応力がかかり歪みが生じるが、実際の掛軸とモデル試料の試験結果から歪みを発生させる原因を試料の内部と外部の要因に分けて抽出し、掛軸の物理的変形を促進させる因子を検討する。
|
Causes of Carryover |
巻き戻し試験が年度末にずれ込み、湿度サイクル条件下で試料を観察するための器材を入手できなかったためである。年度初めに器材などを入手する次第、試験を実施する予定である。
|