2023 Fiscal Year Research-status Report
日本近世の河川管理システムにおける絵図の機能の解明
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21K13163
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Research Institution | Lake Biwa Museum |
Principal Investigator |
島本 多敬 滋賀県立琵琶湖博物館, 研究部, 学芸員 (00822743)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 琵琶湖・淀川流域 / 地図史 / 地図出版 / 災害情報 / 土砂留め / 河川管理 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度は前年度に引きつづき、下記の主題にそって調査研究を進めた。 (1)河川絵図を含む大坂の近世の地図板元(播磨屋九兵衛など)の動向についての分析。 大坂図の大手板元である書肆・播磨屋九兵衛が、地図出版に関してほかの板元とどのような板株(版権)をめぐる紛争をおこなっていたのかについて、研究史上知られている事案を含めて大坂本屋仲間の記録から再検討した。特に災害図については、島本(2019)で論じた1802年出版の淀川水害図のほか、1830年代の大坂火災図の出版に播磨屋が関わっていたことを、対応する地図資料の存在とともに明らかにした。また、災害図以外の紛争の対象となった地図類を博物館・図書館で調査し、それらの記載情報から、当時、水害や都市火災といった災害情報をめぐって播磨屋がどのような需要を想定し、地図出版による地理情報の流通をコントロールしようとしたのかについて検討した。 (2)淀川流域(琵琶湖流入河川を含む)、特に近江・山城における土砂流出・堆積への対応に関係した絵図・古文書の調査と分析。 近江西部の比良山麓地域における自治会・財産区の共有文書などに残された村絵図や古文書から、村レベルで維持管理された砂留や沈砂池の表現、沈砂池の登場年代などを検討し、「普請所」としてそれらが描かれた地域の状況を検討した。また、淀藩による瀬田川(宇治川)・木津川筋の土砂留め管理に関わって作製されたとみられる「城州江州土砂留場絵図」(京都産業大学図書館蔵)について分析し、18世紀末から19世紀初頭における土砂留め役人の業務に即した地図帳形式の絵図の作製・利用について論じた。また、大津町を流れる吾妻川など、近江内の諸地域において作製された土砂留めや寄洲、堤防の維持管理に関わる河川絵図を調査して基礎的検討をおこない、19世紀初頭前後の河川管理における地図作製について同時代的な位置付け作業を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記の研究実績(1)に関しては、これまで明らかにできた成果を学会で口頭発表し、論考にとりまとめる準備を進めている。また、過年度に調査した資料群について改めて所蔵機関に赴いて調査し直し、今後の成果の取りまとめに資する情報を得ることができた。 (2)に関しては、比良山麓地域の事例については書籍所収の論考で、淀藩の土砂留め絵図については査読誌で、それぞれ成果を公表できた。申請時の計画のとおり、近江・山城など畿内近国地域の状況について2023年度内に一定の見通しが立てられ、2024年度からおこなう予定の他地域との比較についても一定の情報を得ることができている。
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Strategy for Future Research Activity |
地図出版の側面に関しては、2024年度も播磨屋九兵衛を中心に大坂の地図板元の動向について検討を進める。2023年度には播磨屋の地図出版について一定程度検討することができたので、今後は地図以外の播磨屋の出版活動の動向についても範囲を広げ、諸機関で所蔵されている書籍資料などの調査も実施しながら、大坂本屋仲間記録など出版関係の史料を分析する。 河川管理に関わる手描き図の側面に関しては、18世紀末から19世紀初頭の畿内近国における地図資料と普請関係の文書・記録類との関係について、2023年度までに調査・撮影済みの資料群に含まれている個別の文書・記録の読解や地図資料の比較検討を進め、近世の河川管理に関する政治史的過程、制度の展開、地域における土砂流出の地理的状況や土木構築物の工法や分布の変化と絵図の内容との関係を分析する。合わせて、畿内近国以外の地域における河川絵図・村絵図の調査と既存研究の精査を進めて、最終年度までに、近世の河川管理と絵図の役割に関する理解の枠組みを構築することとしたい。
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