2021 Fiscal Year Research-status Report
表出的刑罰論と応報刑論の関係に関する基礎理論的考察
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21K13206
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Research Institution | Surugadai University |
Principal Investigator |
竹内 健互 駿河台大学, 法学部, 准教授 (60731685)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 表出的刑罰論 / 刑罰の表出的・コミュニケーション的意味 / 非難 / 害悪の賦課 / 規範論 / 有罪宣告 / 言語行為論 / 応報刑論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、表出的刑罰論のあり方と課題を解明するため、関係文献の収集・分析を行いつつ、刑罰の構成要素としての「非難」と「害悪賦課」の関係について批判的検討を行った。具体的には、第一に、刑罰概念における「非難」の要素を規範論、あるいは刑罰論においてどう位置づけるかに関連して、害悪賦課と異なる固有の制裁(一次的制裁)として「非難」を捉える余地、また「有罪宣告」の機能分析に基づき、有罪宣告の表出的機能として「非難」を捉える余地などに考察の焦点を当てて、なぜ表出的刑罰論において非難・否認が刑罰の一次的意味として重視されるのかを明らかにしようとした。 第二に、刑罰の「意味」と「目的」という観点から、刑罰の表出的機能としての「非難」について検討を加えた。行動規範としての「禁止」や「命令」は、刑罰法規の記述的意味ではなく、刑罰法規内在的な語用論的意味として行為者や市民に了解され得るものだとすると、制裁規範としての刑罰もまた、単に裁判官に対して具体的制裁を指示するにとどまらず、その語用論的意味において「非難」や「否認」として行為者や市民に了解され、またそのコミュニケーション的機能を果たすことにより行動規範の妥当の確証や法益保護に奉仕し得るのではないかという結論を得た。また、「非難」は、必ずしも刑罰の「定義」に関わる記述的意味しか持たないというわけではなく、刑罰の表出的機能は、言語行為論でいう発語内的意図や発語内的効力に関係するものであり、刑罰目的は期待されるコミュニケーションの発語媒介的効果であるとすれば、刑罰のコミュニケーション的機能を刑罰目的関係的に捉え直す余地があり得るとの示唆を得た。 以上の研究成果の一部については、「刑罰の表出的意味としての『非難』について」と題する論文として駿河台法学35巻2号(2022年)51-73頁に公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は、刑罰と非難の関係を規範論的に再構成するという視点から、主要な先行研究を収集・分析したうえで、刑罰の表出的意味として「非難」を、とりわけ制裁規範の意味や目的に関係づけながら分析し、直接関連する論文を発表することができたという点では一定の研究の進展があった。とはいえ、コロナ禍の影響により、報告機会が限定され、また同様の理由により文献収集・調査が行えていないものがあり、予定していた検討作業のすべてを終えることができなかった。以上の理由から、今年度は、当初の研究計画より「やや遅れている」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、これまでの研究成果を踏まえて、ドイツにおいて学位論文を含む関係文献の収集や研究者へのインタビューを実施して、先行研究の分析をさらに補充・進展させるとともに、引き続き規範論や言語行為論の観点から刑罰の表出的意味・コミュニケーション的意味を再検討したうえで、刑罰目的論との理論的関係性について追究する。また、表出的刑罰論における「応報」的契機に関連して、いわゆる「功績」概念を中心としてさらに分析・検討を加え、応報刑論と異なる独自の正統化根拠や判断基準の存否を詳らかにすることで、表出的刑罰論が「偽装された応報刑論」かそれとも「第三の刑罰理論」たり得るかについて解明を進める予定である。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の影響により研究打合せや文献収集に係る旅費の使用機会がほとんどなかったため、次年度に繰り越すことにした。次年度は、少なくとも国内での文献調査等のための出張は緩和されると思われることから、予定通りの支出を見込んでいる。
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