2023 Fiscal Year Research-status Report
Neoliberal reforms of social security system and the historical heritages of Developmentalism in Republic of Korea
Project/Area Number |
21K13232
|
Research Institution | Hokkai-Gakuen University |
Principal Investigator |
井上 睦 北海学園大学, 法学部, 准教授 (00732455)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 不妊治療 / 少子化対策 / 新自由主義 / 開発主義 / ジェンダー / 構造改革 / 個人化 / 男性稼ぎ手モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、韓国と共通の制度遺制を持つ日本にとくに焦点を当て、1990年代以降の少子化対策の変遷、なかでも不妊治療をめぐる言説政治がどのように展開され、どのように位置づけられたかを検討した。 韓国や日本のような開発主義型福祉国家では、男性稼ぎ手モデルと女性による家庭内の無償労働にケア費用とケア労働の負担を大きく依存するために、公的福祉、とりわけ現役世代向けの社会保障政策が脆弱という特徴を持つ。こうした国における新自由主義的社会保障政策は、第1に既存の脆弱な福祉のさらなる削減として、第2に1990年代以降の介護・育児にかかわるケア政策など現役世代向けの政策群の拡充として現れた。ケア政策をはじめとする新たな政策群は、政権やその時々の政治的文脈によって、家族政策、少子化対策、社会的投資など多様に位置づけられてきた。 今年度は、このうち、少子化対策に組み込まれた不妊治療に焦点を当て、それがなぜ、どのように政治課題化されたかを分析した。分析を通じ、①不妊治療については、ジェンダー化された労働市場や、女性が直面するキャリア形成をめぐる集合的問題という側面が取り除かれる一方で、女性(のみ)の/医療の/身体の問題として「個人化」される形で政治課題化されたこと、②その背景として1990年代末以降の経済構造改革、社会保障構造改革のもとに少子化対策が位置づけられてきたことを指摘した。 こうした不妊治療の政治課題化のありようは、新自由主義的社会保障政策がいかに政治課題化されてきたかを示すものであり、さらになぜ近年の少子化対策が、その財政投入にもかかわらず少子化の進展を食い止めるに至っていないかを説明するものでもある。これらの研究内容についてはジェンダーと政治研究会(日本政治学会分野別研究会)第16回研究会(2024年3月22日)にて報告を行った。ここで得られた知見を来年度の論文執筆に繋げる予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
子どもの体調不良が重なり、医療的ケアに時間を割く必要があったために、当初の想定よりも研究に時間を割くことができなかったため。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究では、共通の制度遺制を持つ日韓の相違点が明らかになる一方で、韓国の特異性やその要因については未だ明らかになっていない。制度遺制、グローバルな新自由主義化の圧力、あるいは政党政治といった要素がどのように、どの程度影響を及ぼしたのかについての検討が今後の課題である。今年度は前年度の研究内容を発表するほか、上記の課題に取り組み、口頭発表の機会を得て論文執筆に繋げる予定である。
|
Causes of Carryover |
子どもの体調不良により医療的ケアに従事する時間が必要となり、当初想定していたよりも研究を進めることができなかったため。
|