2021 Fiscal Year Research-status Report
Effects of present bias preference on public pension policy: An economic growth and economic welfare perspective
Project/Area Number |
21K13264
|
Research Institution | Nara University |
Principal Investigator |
中坊 勇太 奈良大学, 社会学部, 講師 (40825923)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 現在バイアス / 公的年金 / 世代重複モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題の目的は、個人がもつ現在バイアスがもたらす時間非整合性が公的年金政策にどのような影響を与えるのか、経済成長および経済厚生の観点から明らかにすることである。公的年金制度が経済成長や経済厚生に与える影響について分析した従来の研究のほとんどは、家計の時間割引率について、時間割引率が一定な指数割引を前提としている。しかし多くの経済実験で、人間は目先の利益にとらわれて現在に近いほど多く割り引く、現在バイアスを持つことが明らかとなっている。以上を踏まえると現在バイアスと公的年金制度を同時に扱えるモデルを用いて現在バイアスをもつ個人にとって公的年金制度の存在が経済成長と経済厚生にどのような効果をもたらすのかを明らかにすることは、これまでにないより現実的な理論枠組みでの分析であり学術的意義があると考える。 本年度は現在バイアスと年金制度を同時に扱える基本モデルの構築を行った。具体的には家計が若年期と中年期と老年期の3期間を生き、若年期と中年期に労働して年金保険料を納め、老年期に年金給付を受ける。同時期に若年期と中年期、老年期が共存する、3期間世代重複モデルである。年金は同時期間で年金収支が均衡する賦課方式(若年期と中年期の保険料支払によって、同時期に生きる老年期の年金給付を賄う)設定である。生産については物的資本と労働を投入物とする新古典派コブダグラス型生産関数とする。消費者の効用関数は一般的なCRRA型とする。以上のような設定のもと、モデルを構築し資本のダイナミクスを導出した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本来の計画では、基本モデルの構築、資本のダイナミクスの導出を行った後、均衡状態の性質と公的年金が経済成長や経済厚生に与える影響について分析することにしていた。しかし、資本のダイナミクスが想定したよりも複雑になり、解析的に均衡状態の性質や公的年金が経済成長や経済厚生に与える影響について分析することが困難であることがわかった。そのため数値計算ソフトウェアを用いた分析に切り替えたが、資本のダイナミクスの導出に当初想定したよりも時間を要したため、均衡状態の性質や公的年金が経済成長や経済厚生に与える影響について十分分析することができなかった。そのため、「やや遅れている」と判断せざるを得ない。
|
Strategy for Future Research Activity |
1年目に積み残した均衡状態の性質や公的年金が経済成長や経済厚生に与える影響について、数値計算ソフトウェアを用いて分析する。そのうえで、当初の計画通り、年金制度の違い(賦課方式か積立方式かといった運営方法の違いや、一括税方式か所得税方式か消費税方式かといった保険料徴収制度の違い)や年金改革が現在バイアスを考慮したモデルにおいて経済成長・経済厚生に与える影響の分析を行っていく。
|
Causes of Carryover |
解析的な分析に当初の想定よりも時間を要したため、公的年金制度が経済成長や経済厚生に与える影響に関する政策的含意を得ることができず、論文にまとめる作業を行うことができなかった。そのため論文執筆に関する関連研究のサーベイや、成果報告、論文英文校正について予定していた金額を次年度に繰り越すこととなった。次年度の助成金については、数値計算ソフトウェア、論文執筆に必要な関連論文の収集、論文の英文校正、成果報告に伴う学会出張に使用する予定である。
|