2021 Fiscal Year Research-status Report
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21K13310
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
石丸 翔也 一橋大学, 大学院経済学研究科, 講師 (40894142)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 失業経験の賃金への影響 / 二方向固定効果モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
この研究の目的は、失業後の長期的な賃金低下のメカニズムの解明である。研究の第1段階の目標は、失業の賃金への影響の因果的な識別やその要因の特定を行うための計量経済学的枠組みを構築すること、第2段階の目標は、実際のデータを用いたメカニズムの定量化であった。 初年度である2021年度は、失業後の賃金低下の実証分析を行う前提としての計量経済学的枠組みの構築に注力した。具体的には、失業経験の賃金への因果的な影響の推定のみならず数多くの文脈で用いられるTwo-way Fixed Effects(二方向固定効果)モデルによる回帰分析について、 これまで知られていなかった数値的・統計的性質やその問題点を示した。例えば、二方向固定効果モデルによる推定値は、短期的な効果を推定したモデルや長期的な効果を推定したモデル、それら全ての加重平均として必ず数値的に表現できるという結果が得られた。これらの結果により、二方向固定効果モデルがどのようにデータを推定値として解釈するか、推定値を因果的な効果として解釈するためにどのような条件が必要かが透明化された。二方向固定効果モデルは例えば最低賃金の効果の分析など様々な実証分析に用いられるため、この成果は実証分析一般において有用である。 これまでの研究成果をまとめた論文はワーキングペーパーとして公表しており、既に数件の引用を得ている。2022年3月末現在、論文の査読付き国際学術誌投稿に向けた改訂作業を進行中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記の研究成果をまとめた論文はワーキングペーパーとして既にまとまっている。2021年度はCovid-19の影響で対面の学会発表などでフィードバックを得る機会は得られなかったが、論文の国際学術誌投稿に向けた改訂作業は順調に進行中である。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は以下の3つの方面で研究の進捗を図る。 (1)これまでの研究成果の国際学術雑誌への投稿。 (2)実際のデータを用いた失業の賃金への因果的効果の推定への着手。 (3)失業後の賃金低下の要因の特定を行うための計量経済学的枠組みの構築。
(1)については、研究会や学会での報告などを通じて国内外の研究者からのフィードバックを得て、論文の改稿を重ねる。(2)については、現時点で入手可能なパネルデータ(米国のNational Longitudinal Survey of Youthなど)での予備的な分析を進めるとともに、必要に応じてデータの利用申請なども検討する。(3)については、これまでの研究成果が「失業後賃金が何%低下するか」の識別に関わるものであったのに対し、識別された低下幅がどのような要因に由来するかの分析の可能性を検討する。
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Causes of Carryover |
2021年度はCovid-19の影響で対面の学会発表などの機会は得られなかったため、予定していた旅費支出がゼロとなった。このため、2021年度に請求していた直接経費の大半が支出されなかった。 2022年度は対面での学会の再開が進んでおり、再び海外渡航が大幅に制約される事態にならなければ、学会参加による海外旅費の発生が見込まれる。航空券価格の高騰や帰国前に義務付けられているPCR検査費用などにより、海外旅費は1件あたりの費用が大きくなる見通しであり、増加した費用を2021年度に未使用であった予算によって補う予定である。
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