2021 Fiscal Year Research-status Report
多国籍企業におけるCSR活動を促すコントロール及びERMについての国際比較研究
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21K13400
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Research Institution | University of Nagasaki |
Principal Investigator |
黒岩 美翔 長崎県立大学, 経営学部, 講師 (30828273)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | CSR戦略コントロール / ERM / COSO / ESG / サステナビリティ情報 / 内部統制 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、多国籍企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility: 以下CSR)活動を促すコントロールの日仏米の比較研究を通して、持続可能性を考慮した全社的リスク・マネジメント(Enterprise Risk Management:以下ERM)フレームワークの適用可能性(国ごとの適切な適用)を検証することを目的としている。具体的には、CSR活動に積極的な多国籍企業の中で行われているコントロール活動とリスク・マネジメント体制の事例研究を行う。そしてその分析をもとに、これまでの研究で明らかにしてきたコントロール論とCOSO内部統制との関係を念頭に、持続可能性を考慮した新しいCOSOのERMフレームワークが様々な多国籍企業に適用可能かを検討する。 本研究では、これまで研究してきたフランスのCSR戦略コントロールと、アングロサクソン系及び日本企業のCSRに関連するマネジメント・コントロールの国際比較研究を行い、それを体系的にまとめることを目的の一つとしている。すなわち、本研究の学術的独自性と創造性は、フランスやアメリカのグローバル企業におけるCSR戦略コントロールと、日本のグローバル企業におけるCSR戦略コントロールの比較研究を行い、各国の国際比較の観点から整理することで、上述のグローバル企業におけるCSR戦略コントロール及び新しいERMの適用可能性やそのあり方を検証することにある。 以上の研究を行うにあたり、CSRやERMに関する基本的文献・資料の収集を行いながら、同時にインターネット上でも具体的な最新情報を収集する。特に、CSR戦略コントロールと内部統制の関係について記載された文献を読み解きながら分析整理を行う。また文献収集だけではなく、国内を中心にCSRや内部統制・ERMの学会に参加し、最新の研究動向を追いつつ、現場の意見も積極的に取り入れる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和3年度は、企業の社会や環境に対する戦略的コントロールについての文献調査を行い、研究結果を学会や学術雑誌で発表した。研究成果は①コントロールレバーとCOSO(2013)のフレームワークとの関連性についての論文をレビューし、4つのレバーとCOSO(2013)の各要素との関係についてコントロールの視点から取りまとめたことと、②多国籍企業におけるCSR戦略コントロールをはじめとする、CSRやESGに関連する活動を促進するコントロールとCOSO&WBCSD(2018)のガイダンスとの共通点を抽出したことである。とりわけ、①においてはCOSOのフレームワークにおけるESG思考の展開についても検討し、これまでの歴史的背景をふまえてとりまとめた。 ①の研究成果は、黒岩美翔「COSO「内部統制」とSimons(1995)の「コントロール・レバー」との関連性についての研究」『九州経済学会年報』(九州経済学会)第59集、2021年12月で発表している。②の研究成果は、2021年12月4日の九州経済学会にて「内部統制フレームワークにおけるサステナビリティ思考の展開」のタイトルのもと報告しており、現在論文を執筆中である。 また、ESGに関連する報告書と内部統制の繋がりについては、キャプラン(2022)の論文を手掛かりに、ガバナンスの扱いについて検討したい。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、①CSR戦略コントロールの日仏米の国際比較研究と、②社会的責任を考慮したERMの適用可能性についての研究を並行して進めている。前年度までは、多国籍企業におけるCSR活動を促すコントロールについて文献調査を中心に研究を行い、コントロールに必要な要素を抽出した。さらに、これらがCOSO内部統制とERMのフレームワークに含まれていることを明らかにした。近年の動向として、SDGsをはじめとする社会や環境に対する問題へ企業やCOSOがどのように対応しているのかをまとめている。 次年度は、上記のような社会的・環境的問題にアプローチしているサステナビリティ情報の報告に関する枠組みや基準の近年の動向をふまえた上で、世界的に主要となる基準、枠組みやそれに伴う監査がCOSOフレームワークにどのような影響を与えるのかも研究対象とする。 また、足立俊輔教授(下関市立大学)とE負債のESG報告書を変える気候変動の会計学について研究会を実施する予定である。ESG報告書の指針となっているGHG(温室効果ガス)プロトコルにおける問題点を浮き彫りにしつつ、E負債の会計への活用を検討していく。また、ESGの中のガバナンスに注目しながら内部統制フレームワークの動向を追うことにしたい。 さらに、フランスのCSR戦略コントロールについては、次年度にフランスのクズラ教授(パリ大学)たちにヒアリング調査を行うことを念頭に、フランス管理会計の研究者である大下丈平特命教授(下関市立大学)との意見交換を行い、マネジメント・コントロールとの関係についても整理することとしたい。
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Causes of Carryover |
令和3年はCSR戦略コントロール、ESG関連のコントロールを中心に研究を行った。研究のために学会や研究会に参加したが、新型コロナウィルス感染拡大防止の観点から、ほとんどがオンラインで実施された。このため出張の支出が抑えられ、使用額が少なくなっている。 差額分に関しては、会計領域でもESGに関する文献や論文、資料が増えてきたため、それらの購入に予算を充当することにしている。
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