2022 Fiscal Year Research-status Report
多国籍企業におけるCSR活動を促すコントロール及びERMについての国際比較研究
Project/Area Number |
21K13400
|
Research Institution | University of Nagasaki |
Principal Investigator |
黒岩 美翔 長崎県立大学, 経営学部, 講師 (30828273)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | CSR戦略コントロール / 内部統制 / ESG / コーポレート・ガバナンス / PACTE法 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、多国籍企業であり、社会的・環境的取り組みに先駆的であるフランスのダノン社を対象に文献調査を行った。フランス国内においていえば、とりわけ社会的・環境的価値の側面でコーポレート・ガバナンスに関する法制度の進展があり、「PACTE法」による改革が行われた。内容としては、民法典において、会社を運営するにあたり、社会的課題及び環境上の課題を考慮に入れるべきことが書き加えられたこと(民法典第1833条第2項)、また存在意義・存在理由(レゾンデートル)を定款に明記することができるとする規定が新設されたこと(民法典第1835条)、さらに「使命を果たす会社(ソシエテ ア ミッション)」制度が新設されたこと(商法典L.210‐10条)が挙げられる。 このPACTE法への取り組みはまだ任意でありながら、上述したダノンはすでに取り組み始めている。そのため、当該企業のアニュアルレポート等をもとに社会的価値を重視するコーポレート・ガバナンスについて検討した。これまでの研究で取り上げていたMoquet(2010)の社会的責任の制度化プロセスのフレームワークの中に、ダノンの最新の動向を位置づけることで、法的レベルの影響が企業内へ浸透していくプロセスを考察した。これにより、マクロ(国際的な政治経済)レベル、メゾ(企業の経営者)レベル、ミクロ(地方のプロジェクトリーダー)レベルの3つの視点からコーポレート・ガバナンスが与える影響を考察することができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、とくにフランスにおける社会的価値重視の企業を中心に文献、資料調査を行い、研究結果を学会や学術雑誌で発表した。その中でも社会的・環境的価値を重視するコーポレート・ガバナンスに関する導入事例として、ダノン社の状況を取り上げた。 研究成果は2022年12月3日の九州経済学会にて「社会的価値を重視するコーポレート・ガバナンスについての研究 -ダノンの事例をもとにー」のタイトルのもと報告を行っており、現在論文を執筆中である。 また、昨年度研究していた多国籍企業におけるCSR戦略コントロールをはじめとする、CSRやESGに関連する活動を促進するコントロールとCOSO&WBCSD(2018)のガイダンスとフレームワークとの比較については「内部統制フレームワークにおけるサステナビリティ思考の展開」のタイトルのもと『九州経済学会』(九州経済学会)第60集、2022年12月にて論文が掲載されている。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度は社会的・環境的問題にアプローチする側面から、フランスの最新の動向についてまとめることができた。そのため、PACTE法をはじめとするこれらの取り組みが実践の場においてどのように適用されているのか、どの程度浸透している状況であるのかインタビュー調査を行う必要があると考える。そこで、フランスの会計学者であるクズラ教授(パリ大学)とモケ教授(パリ東大学)にインタビューを行い、現状について調査するとともに、フランスでは研究が進んでいるのかどうかを調べる。とりわけモケ教授はダノンの社会的責任戦略コントロールについて研究を行っていることから、このようなコーポレートガバナンスの変化が内部のコントロールにどのような影響を及ぼすのかをヒアリングする。また、モケ教授の社会的責任戦略コントロールのフレームワークにPACTE法の影響を位置づけたことについても確認する。 さらに、このフランスのPACTE法は任意であるが、今後義務化される可能性はあるのか、日本をはじめとする他国は追随することになるのかどうか等意見交換を行う予定である。その上で、内部統制フレームワークへの影響をCOSO側と、フランス国内側とから検討することにしたい。 加えて、今年度行うことができなかったE負債のESG報告書を変える気候変動の会計学について足立俊輔教授(下関市立大学)と研究会を実施する予定である。ESG報告書の指針となっているGHG(温室効果ガス)プロトコルにおける問題点を浮き彫りにしつつ、E負債の会計への活用を検討していく。また、ESGの中のガバナンスに注目しながら内部統制フレームワークの動向を追うことにしたい。
|
Causes of Carryover |
前年度に引き続き、新型コロナウィルス感染拡大防止の観点から、研究会や学会等がオンラインで実施されたため、出張の支出が抑えられ、使用額が少なくなっている。 差額分に関しては、会計領域でもESGに関する文献や論文、資料が増えているため、それらの購入に予算を充てることにしている。また、徐々に学会も対面での開催が増えてきているため、研究に関連する学会には対面で参加する予定である。
|