2021 Fiscal Year Research-status Report
ジェンダー/セクシュアリティ研究における分析枠組みの再構築ー精神分析の視点から
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21K13456
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Research Institution | Nagasaki Institute of Applied Science |
Principal Investigator |
古川 直子 長崎総合科学大学, 共通教育部門, 講師 (50803847)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | セクシュアリティ / ジェンダー / 精神分析 / フロイト / 社会構築主義 / フェミニズム / ポスト構造主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年のジェンダー/セクシュアリティ研究における構築主義的アプローチは、ジェンダーとセクシュアリティをセックスという「自然」からラディカルに離床させたとされる。しかし実際のところ、この課題が真に実現されたとは言いがたい。それは「雌雄(男女)の別のあること」と「性的な欲望や快」というセクシュアリティというタームの二つの語義が、いまだ不可分に結びついているためである。このセクシュアリティ概念によって、本質主義と異性愛主義への批判はきわめて不完全なものとなる。本研究は現在のジェンダー/セクシュアリティ論における分析枠組みを精査し、S・フロイトの精神分析によってその困難の乗り越えをはかるものである。 80年代以降のジェンダー/セクシュアリティ研究において導入された社会構築主義的アプローチは、セックスとジェンダーの区分そのものを問い直した。「生物学的で自然な違い」とされるセックスもまた、ひとつの社会的なカテゴリーであるという洞察が提起されたのである。生物学的な性的二型を基盤として、そのうえにジェンダーという社会的性別が築かれるのではない。人びとを男女という相互に排他的な二つのカテゴリーへと分類しようとする動機のもとで、セックスという二項対立的区分が見いだされるのである。性別の二元性が自然に属するというより、むしろ際立って社会的な制度であるという洞察は、異性愛という「自然」にも適用される。実践的な課題は多く残るものの、ここが現在のジェンダー/セクシュアリティ研究の到達点であるとされる。しかし、異性愛主義や本質主義は本当に理論的に乗り越えられたと言えるのだろうか。本年度の研究では、ポスト構造主義フェミニズムにおけるジェンダー概念の検討をつうじて、この問いを考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ジェンダー/セクシュアリティ研究における構築主義的アプローチの理論的困難をフロイトの精神分析によって乗り越えるという課題に向けて、本年度はポスト構造主義的フェミニズムにおけるジェンダー概念を検討した。80年代以降のジェンダー/セクシュアリティ研究において導入された社会構築主義的アプローチは、セックスとジェンダーの区分そのものを問い直した。「生物学的で自然な違い」とされるセックスもまた、ひとつの社会的なカテゴリーであるという洞察が提起されたのである。この観点が切り拓いた射程の意義は大きい。しかし他方で、このアプローチの立論そのものにその意義を切り崩しかねないような理論的混乱が含まれているという点については十分な議論がなされてこなかった。ポスト構造主義的フェミニズムにおいては、知としてのジェンダーがセックスを包摂し、両者の文化的・歴史的可変性が強調される一方で、生物学的カテゴリーとしての性別(セックス)の実在は、この可変性を論じるための前提として密輸入される。本年度の研究では、この理論的困難をあらためて整理し、このアプローチを生産的に引き継ぐための出発点を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究ではまず、フロイトの内在的読解をつうじてGeschlechtlichkeitとSexualitaetという二つのタームの用法を検証し、これらの語の使い分けがフロイト独自のターミノロジーに属することを明らかにする。セクシュアリティというタームは、19世紀に英独仏語圏の相互翻訳をつうじて浸透していった。この点を踏まえ、独語のGeschlechtlichkeit/Sexualitaet、英語のsexuality、仏語のsexualiteの語義の変遷が、いかなる文脈において、どの時期に生じたかを考察し、フロイトの用法と対照する。ここから、フロイトによるこれらのタームの区別が、現在のジェンダー/セクシュアリティ研究の理論的困難に対してなしうる貢献を明らかにする。
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