2021 Fiscal Year Research-status Report
生体内氷晶のX線ナノスケール観測に基づいた不凍タンパク質多細胞系凍結保存法の確立
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21K14466
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
倉持 昌弘 茨城大学, 理工学研究科(工学野), 助教 (60805810)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 不凍タンパク質 / 線虫 / 凍結保存 / 氷晶制御 / 熱ヒステリシス / 蛍光観察 |
Outline of Annual Research Achievements |
不凍タンパク質(Antifreeze Protein: AFP)は、氷晶成長を抑制するユニークな機能をもつ。これまでに、魚や菌類由来のAFP遺伝子を線虫C.エレガンスに導入し、凍結環境における耐性獲得と、2度から4度程度における低温耐性の改善を見出した。AFPは、個体生物体内でも氷晶成長阻害と細胞保護という2つの機能を発揮できることがわかった。これらの作用は、多細胞生物の凍結保存においても効果的に機能すると考えられる。そこで本課題では、AFPの最も有効な凍結保存法の確立を目指し、低温環境下における蛍光イメージングによる線虫細胞の活性評価、X線回折法によるAFP氷晶制御のナノスケール測定を行う。AFP種類、導入量、導入部位に加えて、緩衝液濃度、冷却・解凍速度を凍結制御パラメーターとし、凍結保存法の最適な条件を検討し、個体生物まるごとの凍結保存技術を目指す。 本年度は、AFP遺伝子を導入した遺伝子組み換え線虫を用いて、線虫凍結保存後の生存率評価を実施した。凍結解凍後の生存率について、魚由来NfeAFP8を遺伝子発現する線虫の場合、AFPを発現しない線虫と比較して20%程度生存率が高いことがわかった。また、菌類由来AnpAFPとその変異体であるAnpAFP T156Y遺伝子を導入した線虫生存率を比較すると、変異体を発現する線虫生存率は野生型AnpAFPを発現する線虫生存率より5%程度低いことがわかった。AnpAFP T156Y変異体は、氷晶結合能力が野生型AnpAFPより著しく低い。この氷晶制御効果が個体生物の凍結保存でも重要な要素であることが示唆された。また、これら生存率評価と並行して、カルシウムイメージングによる細胞活動測定、X線回折による生体内氷晶測定に取り組んでおり、予備データではあるが、AFPによる細胞保護効果、生体内氷晶の形状制御に関わるデータが得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
凍結解凍後の生存率評価から、AFPによる凍結保存効果を見出すことができた。また、氷晶結合能との関連も見出せた。本課題では、これら生存率評価に加えて、年度末から次年度にかけて、蛍光イメージングによる細胞の機能活性評価、X線回折像による生体内氷晶観察の実施を検討していたが、すでにこれらの測定に取りかかることができ、AFPによる効果を示す一定の成果を得することができている。
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Strategy for Future Research Activity |
蛍光イメージングによる細胞の機能活性評価、X線回折像による生体内氷晶観察を行う。AFP種類や凍結解凍時の温度制御、凍結剤などもパラメータとして検討し、最小限の氷晶成長、細胞損傷の軽減化を図り、最適な凍結保存法を確立する。また、これらに加えて、AFPがなぜ氷に結合できるのか?という問いに答えるべく、中性子回折実験を実施し、AFP表面の水和構造を明らかにすることで、AFP構造に基づいた氷晶結合能を明らかにする課題にも着手する。
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Causes of Carryover |
未だコロナ禍の影響もあり、学会や打ち合わせについては、ほぼオンライン化していた。そのため、オンサイトで生じる旅費分が減ったため、次年度使用額欄が「0」より大きくなった。現在は少しずつ状況も改善されており、次年度ではオンサイトでの学会、打ち合わせが増えると思われ、出張旅費として今年度分に使用する予定である。
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Research Products
(11 results)