2021 Fiscal Year Research-status Report
水溶性光酸化還元触媒が可能にする糖の保護基フリー変換
Project/Area Number |
21K14626
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
増田 侑亮 北海道大学, 理学研究院, 助教 (20822307)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 光 / 水 / 糖 / 保護基フリー / ホスホニウム塩 / 脱芳香族化 / 光酸化還元触媒 / 銅 |
Outline of Annual Research Achievements |
当初の研究計画に従い、水溶性光酸化還元触媒の開発と無保護糖の変換反応に取り組んだ。その結果、配位子にカルボキシ基を有するイリジウム光酸化還元触媒を用いた場合に、水中での無保護糖の光異性化反応が進行し、2―デオキシ糖が得られることを見出した。この反応は、従来のケトン光触媒と紫外光を用いた反応に比べて、可視光を用いる点・生成物が高収率で得られる点・糖酸化体が副生しない点などで優れている。また、水中での糖異性化反応は、既存の疎水性イリジウム光触媒では進行しないことを確かめており、本触媒系が水中光反応を達成する上で重要であることが示された。 水中光反応を検討する際に、アリールホスフィン、アルケン、二酸化炭素の極めて興味深い反応が進行することを見出した。すなわち、水とアセトニトリルの混合溶媒中、二酸化炭素雰囲気下でアリールホスフィンとアルケンの混合物に対してイリジウム光触媒を作用させたところ、シクロプロパン環を含む3環性ホスホニウム塩が得られた。この反応は、アリールホスフィンのベンゼン環のひとつが三員環と五員環が縮環した構造へと脱芳香族化するとともに、リン原子が転位するユニークな反応である。詳細な機構の解析を行ったところ、出発物質から生成物に至るまでに2回の光化学過程を経由していることがわかった。この知見をもとに、アリールホスフィンとアルキンの環化反応による環状ホスホニウム塩の合成およびアリールホスフィンとアルキンのカップリング反応によるアルケニルホスホニウム塩の合成手法を開発した。これらの化合物は続くホスホニウム塩の変換反応によって、多種多様な有機分子へと誘導することが可能であった。 その他、光とパラジウムや銅といった遷移金属触媒を組み合わせた反応の開発にも取り組んでおり、それぞれ新規炭素―リン結合および炭素―炭素結合形成反応として学術論文にまとめた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画である水溶性光酸化還元触媒の開発とそれを用いた糖の異性化反応を達成した。カルボキシ基を有するイリジウム光触媒が塩基性水溶液に可溶であり、水中での無保護糖の変換反応を触媒するという新しい知見を見出した。このコンセプトは糖の変換のみならずアミノ酸などの水溶性天然物へと応用できると考えており、合成化学やケミカルバイオロジー分野への波及効果が期待できる。 水中での光触媒反応の新しい展開として、3級ホスフィンと不飽和炭化水素化合物との反応によるホスホニウム塩の合成法を開発した。まずアリールホスフィン・アルケン・二酸化炭素を光触媒の存在下で反応させることで、三環性ホスホニウム塩が合成できることを見出した。この反応ではホスフィン上アリール基の脱芳香族化が進行し、入手容易な出発物から極めて複雑な構造を有する有機リン化合物が得られる。また、2段階の光化学過程を経る反応機構を明らかにした点でも学術的意義が大きい。これらの知見をもとにさらなる研究の展開を行い、ホスフィンとアルキンとの反応による環状ホスホニウム塩およびアルケニルホスホニウム塩の合成に成功した。今後はより多様なホスホニウム塩の合成と、合成したホスホニウム塩の利活用という点で分野の発展が期待できる。ホスホニウム塩は脂溶性カチオンとして細胞小器官に局在するなどの性質が知られており、この特異な性質を利用して生物学研究においての利用が盛んに行われている。このことから、有機合成化学のみならず医薬・生物学など分野の垣根を越えた発展が期待できる。 以上のように、本研究では当初の研究計画を遂行するとともに、光触媒によるホスホニウム塩の合成という新分野を開拓するに至った。これらの研究成果は学術的に重要であり今後のさらなる発展に期待できることから、「当初の計画以上に進展している」と自己評価する。
|
Strategy for Future Research Activity |
引き続き、水溶性光酸化還元触媒を用いた無保護糖の変換反応に取り組む。前年度の研究において、カルボキシ基を有するイリジウム光触媒が水中での光反応に有効であることを見出している。この知見を活かし、ラジカル受容体を添加した無保護糖への官能基導入反応の開発を行う。すでに、ニッケル触媒を共存させることで、ベンジルラジカルと芳香族臭化物とのカップリング反応が水中で進行することを見出しており、これを応用することで糖の直接アリール化反応へと展開する。また、カルボキシ基のみならずスルホキシ基など他の水溶性置換基を導入することで、新規水溶性光酸化還元触媒の創出を目指す。 これと並行して、光による新規ホスホニウム化合物の合成手法についても検討を行う。ホスホニウム塩は有機合成研究のみならず、脂溶性カチオンとして生物学的研究の対象としても興味が持たれる化合物群である。そこで、有機分子に効率よくホスホニウム部位を導入する反応の開発を行う。すでにビニルホスホニウムを用いたアルキル化反応に関する知見が集まっており、幅広い展開を見据えて研究を推進する。また、上述の水溶性光触媒の研究と組み合わせることで、水中でのホスホニオ化反応が達成可能であると考えており、ひいては細胞内でのホスホニウム導入反応へと展開する。 光と遷移金属触媒を組み合わせた反応の開発も継続して行う。前年度の研究で得た、光銅触媒および光パラジウム触媒に関する成果を足がかりに、新たな炭素―炭素結合形成反応を見出す。一般的にラジカル反応はその制御が困難であり、不斉反応への応用は限られている。そこで独自の不斉配位子をデザインすることで、不斉ラジカル反応の領域開拓に取り組む。すでに光銅触媒不斉炭素―炭素結合形成反応に関する新たな知見が得られており、引き続き研究を推進する。
|
Causes of Carryover |
当初参加予定であった学会がすべて昨今の新型コロナウィルスの蔓延によってオンライン開催となったことから、計上予定であった旅費を次年度使用とした。また同時に、コロナウィルス蔓延防止を目的とした在宅ワークおよび研究室の人数制限を行ったことから、当初予定していた消耗品費に余剰が生じたため、これも次年度使用額に計上することとした。 次年度使用額の使用計画に関しては、今年度に研究が大きく展開し、当初の研究計画である「水溶性光酸化還元触媒の開発と糖の保護基フリー変換反応」に加えて、「光触媒によるホスホニウム合成手法の開発」および「光と遷移金属触媒による新規分子変換手法の開発」にも着手したことから、これらの研究に関する消耗品費および学会参加旅費を追加で計上する計画である。
|
Research Products
(10 results)