2022 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
21K14917
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
長澤 貴宏 九州大学, 農学研究院, 助教 (70775444)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 粘膜免疫 / 魚類免疫 / 創傷治癒 / 養殖業 / プロテオーム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は魚類の海面養殖等における疾病対策の指針としての「体表に生じた創傷を速やかに修復する能力」に着目し、魚類の体表に物理的刺激を与えた際の粘液中のタンパク成分の経時的変化を検出・解析し、魚類の体表粘膜修復機構に関する知見を得ると共に、それらの修復に重要となる成分を特定して(養殖現場等における)体表粘膜コンディションの評価指標として活用することを目指す。 研究期間の2年目となる2022年度は初年度に引き続き主要な養殖魚種であるブリを対象として、体表に刺激を与えた後に粘液中に現れるタンパク成分を網羅的解析手法によりピックアップし、その成分を質量分析により同定した。 2022年度は特に創傷刺激から比較的短い時間においての粘液成分変化を注視し、刺激後に新規に粘液中に現れたタンパクスポットを二次元電気泳動後のゲルから抽出、質量分析により同定した。その結果、組織障害により生じたと思われるタンパク成分や、細胞内に多く含まれるタンパク成分等がブリの転写産物データベースと照合し同定された。 また得られた結果からサンプリングタイムテーブルを再設計し、且つ個体ごとのばらつきを極力抑える意図で、あらかじめ海面生簀から陸上水槽に移し2週間以上経過した試験魚で新たに創傷刺激試験を行った。試験サンプルとしては体表粘液の他、血清サンプル、遺伝子発現解析用に表皮サンプルと肝臓や頭腎のサンプルも取得した。体表で変動したタンパク成分がどの組織に由来するのかを統合オミクス的な手法で解析することも予定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度には初年度に得た体表粘液サンプルの解析を進め、実際に試験区間で差異の見られたタンパクスポットを抽出し、質量分析による同定を行った。 結果として試験区内でのばらつきはみられたものの、創傷刺激後に出現したタンパク成分を同定し、創傷刺激によって粘膜成分の変動が起きていること、またそれらの短期的変化は組織障害によって生じたものである可能性が判明した。ここまでの解析は特に問題なく当初の予定通りに行えているといえる。2022年度には初年度に得た体表粘液サンプルの解析を進め、実際に試験区間で差異の見られたタンパクスポットを抽出し、質量分析による同定を行った。 結果として試験区内でのばらつきはみられたものの、創傷刺激後に出現したタンパク成分を同定し、創傷刺激によって粘膜成分の変動が起きていること、またそれらの短期的変化は組織障害によって生じたものである可能性が判明した。ここまでの解析は特に問題なく当初の予定通りに行えているといえる。 また同定されたスポットの中には同タンパク由来の分解産物や、リン酸化の有無により生じたと考えられる新規スポットも含まれており、これらの成分は遺伝子発現解析では識別できないことから本研究のプロテオーム解析によるアプローチが体表粘液成分の動的モデル解析に極めて有用であることが裏付けられた。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度の予定としては、前年度の飼育試験で得られたサンプルの解析を進め、創傷刺激後のタンパク成分変動をより高解像度に解析し、特に創傷治癒時に関連するタンパク成分の特定を中心に行う。2022年度の飼育試験サンプルでは試験開始時点での試験魚の体表ストレスが以前よりも少ないものと期待され、それによりサンプル間のばらつきを抑えるとともに微量な変動についても検出できると予想される。 昨年度に得られた創傷により生じた成分だけでなく創傷の治癒に直接関与する成分の検出、特定を目指す。それらの治癒に関わる成分の候補を絞れたら、そうした成分が体表局所で産生されるのか、血流によって輸送されているのかを発現解析や血清中の濃度測定により解明する。 また2022年度に特定されたタンパク成分は体表組織のダメージによって生じたものが主と考えられるため、これらの成分を検出する手法の確立も目指す。例えば飼育水中からこれらの成分を検出できれば、魚の体表ストレスが増加しているかどうかや擦傷の有無を評価し、魚病被害等の早期発見、対処につながると期待できる。 最終的には体表環境の修復力・恒常性維持力といった、これまで曖昧な定義しかなかった養殖魚のコンディションを客観的に評価し数値化する指標を確率したい。すなわち、飼育環境等の要因によりこれらの成分が減少していれば体表の傷が修復されにくく感染症のリスクを増大させることになるため、そうした指標でコンディション悪化を早期に検出できれば魚病被害を未然に防ぐことにもつながると考えている。
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Causes of Carryover |
2021年度に行ったサンプリングの結果を基に2022年度にあらたに試験系を設定しサンプリングを行った。当初の予定から解析対象をこちらに移行させたため、その分の解析費用を次年度に持ち越すこととなった。
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