2021 Fiscal Year Research-status Report
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21K18196
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Research Institution | Japan Fine Ceramics Center |
Principal Investigator |
小林 俊介 一般財団法人ファインセラミックスセンター, その他部局等, 上級研究員 (60714623)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
穴田 智史 一般財団法人ファインセラミックスセンター, その他部局等, 上級研究員 (40772380)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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Keywords | 走査透過電子顕微鏡 / 情報科学 / 計測 / エネルギー関連材料 / 触媒 / 電池 / 欠陥 |
Outline of Annual Research Achievements |
現代社会を支えている触媒や電池材料などのエネルギー関連材料では界面や表面などの局所領域において、極めて僅かな原子変位に起因する物性発現や変化が重要となる。この局所領域での原子変位計測を可能とする手法が走査透過電子顕微鏡(Scanning transmission electron microscopy: STEM)法である。特に、 STEM 法の観察手法の一つである高角度散乱暗視野(high angle annular dark-field: HAADF)法では,高角度側へ散乱された電子を用いることで,観察される輝点が原子位置に対応し、また,その輝点強度が原子番号に依存することから像解釈が容易となる。本研究ではこのHAADF法を主としたSTEM法を用いた高精度画像取得・解析技術(電子顕微鏡学)と機械学習などを用いた画像処理技術(情報科学)を融合し、既存計測技術の精度を超えた実空間における超精密原子位置計測に取り組む。 2021年度は既存設備(収差補正STEM装置:JEM-2100F、日本電子)を用いた計測精度限界の検証を行った。STEM法を用いて数十枚の像を高速で取得し、各画像を重ね合わせ積算像を得ることで原子位置精度を向上させることができる。さらに、初期画像の原子位置精度が高いほど、画像処理後の原子位置精度は高くなることが期待できる。そのため、標準試料SrTiO3を用いてSTEM像取得時の観察条件を網羅的に検証し、実験における既存設備を用いた原子位置精度の限界値の検討を行った。その結果、原子位置精度2 pmから1.2 pmまで向上させることができることを確認した。また、次年度以降に予定していた触媒粒子から高精度STEM画像取得および機械学習を含む画像処理を実施した。触媒粒子においては画像取得条件および表面の原子変位解析における課題抽出を行った。画像処理においては予備検討として、各種アルゴリズムにおける画像処理における原子位置精度の検証を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度は既存設備(収差補正STEM装置:JEM-2100F)による計測精度限界の決定と機械学習を含む画像処理における各種パラメータと画像情報への影響の検証を行った。その進捗状況を下記に示す。 ペロブスカイト酸化物 SrTiO3から取得した画像を用いて精度検証を行った。SrTiO3は理想的な立方晶系ペロブスカイト酸化物(空間群Pm-3m)であり Ti イオン位置は幾何中心と一致する。すなわち、Ti イオンの幾何中心からのずれを算出することにより,取得画像中の原子位置精度を示す誤差を算出できる。STEM法を用いた画像取得条件 (電流量、画像積算枚数、画像取得速度、位置合わせ手法など)を系統的に検証した。その結果、HAADF STEM法を用いた原子位置精度2 pmから1.2 pmまで向上させることができることを確認した。 実験における原子位置精度の限界を克服するため、次年度以降に情報科学による画像構築を実施する。その予備検討として画像処理に伴い生じる画像情報の変化を詳細に検討をすることで、各種アルゴリズムによる課題抽出を行った。変位量が既知であるシミュレーションSTEM画像を用いて検証を実施した結果、画像処理の条件によっては、この変位量が変化する、すなわち、画像処理条件により画像に含まれる情報が変化し、本質的な解析には用いることができない場合があることを確認した。ここで得られた知見を踏まえて、画像に含まれる情報を消失させない画像処理条件を詳細に検討し、原子位置精度を向上させるためのアルゴリズム構築を目指す。 以上より初年度に計画した研究計画に関して、おおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度前半は異なる装置(収差補正STEM装置:JEM-2400FCS)による原子位置精度の検証実験を実施する。異なる装置、すなわち、世代が新しい装置では画像中に含まれれるノイズ成分が変化・減少する。STEM画像取得条件では制御することができない装置に由来するノイズ成分が、原子位置精度に対する影響を検討することで、原子位置精度を決めている因子を理解するための検証実験である。また、最適化したSTEM画像取得条件を用いて、エネルギー関連材料における表面・界面の観察を実施する。燃料電池電極に用いられる Pt 系粒子の触媒性能は表面の原子間距離と密接に関係しており、触媒粒子性能を理解するためには粒子表面の情報が重要となる。そのため、Pt系粒子の表面一層のPt-Pt間距離計測を実施し、理論的に予測される表面Pt原子間距離と触媒活性の関係を解明する。また、板状のPt系合金標準試料を用いて、バルク材料と微粒子の格子定数および表面の構造解析を実施する。これにより、Pt系粒子表面から計測されるPt-Pt間距離が微粒子固有の変化、すなわちバルク材料には存在しない構造変化を有しているかどうかの検証を行う。また、これらの計測結果を踏まえて、触媒粒子表面における必要な原子位置精度を実験の側面から求める。また、情報科学を用いた画像構築を、シミュレーションSTEM画像および実験像へ適応を実施する。その為に、2021年度に明らかになった、画像処理にともなうアーティファクトが生じない条件を詳細に検討していく。そして、機械学習などを用いた画像の再構築により実験像を超える原子位置精度を達成しうるアルゴリズムの構築を目指していく。
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Causes of Carryover |
次年度使用額532円であり2021年度は概ね計画した経費を執行した。また、次年度使用額532円は2022年度の直接経費の0.01%程度である。そのため、使用計画に関して大きな変更はない。
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