2023 Fiscal Year Research-status Report
中途半端な共生を科学する:異宿主への適応プロセスから導く共生進化ロジック
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21K18241
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
菊池 義智 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 研究グループ長 (30571864)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
伊藤 英臣 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 主任研究員 (70748425)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2025-03-31
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Keywords | 共生 / 進化 / 微生物 / 複合適応形質 / 遺伝的基盤 |
Outline of Annual Research Achievements |
「微生物との共生」は多くの動植物に見られる普遍的な現象であり、生物進化を駆動する原動力ともなってきた。これら共生微生物は高度な宿主特異性を示すが、その進化過程は複雑で今なお進化生態学・微生物学におけるブラックボックスとなっている。我々はその謎を解く鍵が、微生物が稀に見せる「異宿主(本来の自然宿主ではない生物)への中途半端な共生」にあると考えている。中途半端な共生は新たな宿主に適応するための初期段階とも捉えられ、特異性の進化過程を理解する上で極めて重要だと考えられるが、再現性が低いため研究の俎上に載せることが困難であった。しかし我々は、ホソヘリカメムシとBurkholderia共生細菌から成る昆虫共生系において、“再現性の高い”異宿主への中途半端な感染現象を発見することに成功した。本研究では、この独自の実験系を用いて中途半端な感染現象の遺伝的基盤を解明し、宿主特異性の進化プロセス・進化原理の統合的理解を目指す。 本年度はBurkholderia共生細菌に近縁で中途半端な共生をみせるParaburkholderia fungorumとPandoraea属細菌について、共生関連遺伝子の解析を進めるとともに、感染動態の詳細な比較解析を行った。その結果、Pandoraea属細菌は比較的早く狭窄部を突破して共生器官に到達するものの、共生器官の中でバイオフィルムを形成し盲嚢部位への定着が阻害されることが新たに明らかとなってきた。一方Paraburkholderiaは消化管前部でバイオフィルムを形成してしまい、共生器官への定着自体が遅れることが明らかとなった。また、走化性変異株の解析からは、何らかの誘引物質が共生器官から分泌されている可能性が強く示唆された。以上の結果は、これまで見えていなかった非共生細菌の感染動態の違いを明らかにしたもので、その進化史の推定において重要な成果と言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでにPandoraea属細菌およびParaburkholderia fungorumについてTn-seq比較解析を進めつつあるが基盤整備が必要である。一方、共生細菌以外の非共生細菌がみせる感染プロセスの違いや、感染した共生器官の形態変化について多くの知見が蓄積しつつあり、共生関連遺伝子を特定するための多角的アプローチの結果が出始めている。
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Strategy for Future Research Activity |
Paraburkholderia属細菌とPandoraea属細菌の感染動態や遺伝子発現の比較解析を進めることで、その共生進化のプロセスが総合的に明らかになると考え、引き続き研究を遂行する。
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Causes of Carryover |
実験が新たな機器や物品を購入せずとも順調に進行しているが、今後研究を加速させるため人件費(ポスドク、実験補助員)に予算をさらに使用する予定である。
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