2023 Fiscal Year Research-status Report
ヒト癌オルガノイドオライブラリーを利用した治療抵抗性癌の発生・維持機構解明
Project/Area Number |
21K18259
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
佐藤 卓 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 非常勤講師 (40375259)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2027-03-31
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Keywords | 患者由来がんオルガノイド / 化学療法耐性 / がん幹細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者は、独自に確立した舌がんオルガノイドライブラリーについて、実際に臨床治療に使われる、シスプラチンに対する感受性を検討し、これらのうち3症例の患者由来の舌がんオルガノイド株がシスプラチン耐性舌がん細胞を、相対的に多く含むことを見出している。また、これらのシスプラチン耐性舌がん細胞の網羅的遺伝子発現データから、複数(11種)の分泌因子の発現が、同がん細胞において特徴的に濃縮されていることを見出している。昨年度の研究においてシスプラチン耐性舌がんオルガノイド株において、レンチウイルスベクター系を用いた分子Xノックダウンオルガノイド株を作製したが、同分子のノックダウンによるシスプラチン感受性亢進はごくわずかでり、これらの分子発現の亢進はパーシスタンスの誘発には必須ではないと考えられた。一方、並行して申請していた先進ゲノム支援の中で実施した同オルガノイド株のscMultiome解析結果から、化学療法耐性舌がんでは、期待されたとおり、化学療法感受性舌がんに比べ、分子X遺伝子上流のエンハンサー領域のクロマチンアクセシビリティが著明に亢進してい流ことを確認した。また興味深いことに、当該領域にはがん細胞の休眠状態誘導のマスターレギュレーターとして、細胞周期抑制や、タンパク合成抑制を引き起こすことが知られている転写因子Yの結合モチーフが強く濃縮されていることがわかった。つまり、化学療法剤耐性がんにおける分子X 遺伝子の発現亢進は、転写因子Yを介した転写レギュローム活性化の結果の一つと考えられ、このような転写制御の異常が化学療法剤耐性がん幹細胞を産む原因であることが予想された。一方、多症例の食道扁平上皮がん患者組織から樹立したがんオルガノイド株についても、昨年度に引き続き、遺伝子変異解析、遺伝子発現解析、エピゲノム解析を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
分子Xノックダウンオルガノイドで、化学療法剤応答性がわずかにしか変化しなかったことで、研究方向性の修正を余儀無くされた。また本年度申請者は所属機関を異動し、培養を一時休止せざるを得なかったため、実験が遅延した。その一方、科研費申請時点で見出していた現象の背景に、化学療法耐性がん幹細胞の性状形成に重要と考えられる転写因子Yを介した転写制御があることが見出され、来年度以降の研究の方向付けができた点は進捗である。
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Strategy for Future Research Activity |
化学療法抵抗性を担う遺伝子発現の全体像を明らかにするため、化学療法剤耐性舌がんオルガノイドで転写因子Yを対象としたChIP-seqを実施し、標的遺伝子群を同定する。また この情報を取得済みのscMultiomeデータと統合することで、化学療法剤耐性がん幹細胞を特定し、遺伝子発現プロファイルからそれらの性状を推定する。
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Causes of Carryover |
2024年度において、オルガノイド培養のための試薬購入、および作出したオルガノイドの性能評価のための種々の受託解析(変異解析、遺伝子発現解析、ChIP-seq)の実施が想定されるため、それらに上記次年度使用額を支出する。
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