2021 Fiscal Year Research-status Report
Art works and the sense of smell
Project/Area Number |
21K18328
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
出 佳奈子 弘前大学, 教育学部, 准教授 (60469426)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
竹囲 年延 弘前大学, 理工学研究科, 助教 (60517712)
慶野 結香 青森公立大学, 国際芸術センター青森, 学芸員 (00736746)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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Keywords | 香り / 嗅覚 / 美術作品 / 檀像 / ニオイセンサ / 香りと脳波 / 現代美術 / 美術作品の受容 |
Outline of Annual Research Achievements |
第一に、「美術作品の受容における匂い/香りの効果」については、日本における仏像の中でも檀像に注目し、天平時代から平安時代初期にかけて香木を用いて作られた仏像の変遷と分布、また経典における香に関する記述との関連性を確認した。その際、奈良の法隆寺、法華寺、大安寺、京都の神護寺等に残る檀像や、榧材を用いたいわゆる代用檀像を調査した。また、檀像とは異なるが、清涼寺(京都)の釈迦如来像のような、胎内に布製の五臓六腑や香の納入された作例があることに注目し、それらの作例の中でも神奈川県立歴史博物館所蔵の《観音菩薩像》(11~12世紀)の実地調査を行った。その際、内部に納入されていた香を確認し、今後はこの香の成分分析に着手すると同時に、香を用いた宗教的イメージの受容の実態を文献調査などを通じて明らかにしたいと考える。なお、キリスト教美術受容における香りの効用に関しては、16世紀ヴェネツィアで出版された匂い玉の作成法に関する文献等を読み進めている。 第二に、香りと脳波の関係を調べるために、脳波計とその使い方について調査を行った。結果、実験で使用する脳波計を決定した。今後は、ニオイセンサと脳波計を用いた2種類のデータを取得し、匂いの知覚に関する客観的な解析を行ない、美術品展示における匂いの受容の可能性や効能について考察していく。 第三に、現代美術の領域における作品と「嗅覚」について調べるため、2021年度は国内の動向について集中的に調査した。特に木材などの動植物が素材、テーマとなった作品に注目するとともに、作品体験から受ける感覚の変容にも拡大して研究を行っている。2022年3月には、調査のためポーラ美術館(神奈川)、金沢文庫(神奈川)、Cygアートギャラリー(盛岡)等を視察し、自然現象や感覚をテーマとした美術作品や、仏教美術・土産物としての木彫を題材とした展覧会の最新動向について調査を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
美術作品の受容と香りの関係に関する調査としては、国内に現存する作例として神奈川県立歴史博物館蔵の観音菩薩像を具体的な調査対象として取り上げるまでに至った。この展開は当初は予測していないものであったが、研究内容をより具体的なものとしていく上で大きな進展と考えている。一方、西洋の宗教美術における香りの位置付けについては現地調査を行う段階に至っていない。この点は、昨今の世界情勢を鑑みながら、今後展開させていきたい。 作品受容におけるニオイセンサの利用可能性や、香りと脳の関係についての調査は、ニオイセンサにおける分析を試みている段階であり、分析結果の解釈をどのように行なっていくべきであるか検討中である。一方で、使用する脳波計の決定に至った点は、本研究にとって重要な進展と考える。 現代美術や美術展の動向における匂い・香りの位置付けについては、関連する作品を提示する作家との接触を行なっている段階にあり、研究の初年度としては満足できる段階にある。
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Strategy for Future Research Activity |
仏像と香料の関係、そしてその胎内に香を奉納する行為に関する研究としては、神奈川県立歴史博物館の《観音菩薩像》に納入されていた香の化学分析を行い、その成分を明らかにしていきたい。同時に、これらの香が布製の五臓六腑に収められていたことを考慮し、仏像という聖性をともなう存在の身体と香の繋がりについて、経典や中国医学の文脈に照らしたりしながら考察していく。一方、キリスト教の儀式空間における香の使用や、香りに関連する可能性のある木製の聖人像に注目し、キリスト教美術における香りの効能についても調査を進める。 香りと脳波の関係については、白檀・榧・シナの木で彫られた三種類の彫像(全て同じ形)を、「香りなし」と「香りあり」のニパターンで被験者に鑑賞させ、その際、鑑賞者(被験者)に脳波計をつけることで脳の反応のデータを集積していく。これによって、本来は視覚的な作品体験における嗅覚の働きが、体験をどのように変容させ得るのかという点を明らかにしていきたい。また、ニオイセンサの有効な使用方法についても調査を進めていく。 現代美術における嗅覚作用については、今後も作家の動向を調査し、2023年度に予定している本件の調査に関連する展覧会の開催に向けて準備を進めていく。
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Causes of Carryover |
物品費に関して、当初は、臭い成分の特定と嗅覚システムの構築のために全方位レーザーなどの高額機器を購入する予定であったが、臭い成分の特定方法を検討する段階で、新たに、ニオイセンサ「noseStick」(50万円程度)を導入する案が出され、このセンサの利用法を検討するために、令和3年度は、現在学内において同じセンサを所有する他の研究室にて実験的に操作を試すことを繰り返していたため。現在、「noseStick」は発注済みで令和4年5月に納品予定である。これに併せて必要となる他の部材も購入することを予定している。 旅費については、嗅覚体験を導入した作品制作の検討・依頼のため複数の作家と面談することを予定し、多くは実施することができたものの、1月から3月にかけての新型コロナウィルス感染症の拡大にともない、出張が叶わないケースがあったために、次年度使用額が生じた。 次年度は、「noseStick」の購入をはじめとする機材を購入し、また脳波計も使用しながら、作品鑑賞における嗅覚の働きについてのモニタリング調査を行っていく。その際、モニタリング協力者への謝金、また作業補助者への謝金の支出も発生する。また、令和5年度に予定している展覧会の実施を視野に入れ、7月までには前年度に接触できなかった複数のアーティストと面談し、作品制作の依頼を進めていく予定である。
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