2022 Fiscal Year Research-status Report
Representation, Imagination and Modern Consciousness in the Other World and Contemporary Monsters
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21K18349
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Research Institution | Kyoto Bunkyo University |
Principal Investigator |
井上 嘉孝 京都文教大学, 臨床心理学部, 准教授 (20547377)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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Keywords | 異界と怪物の表象 / 心の歴史性 / 現代意識 / 社会化と非社会化 / 心理学的境界 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、こころの歴史性とコスモロジカルな境界、および心理学的な境界という観点から異界と怪物を巡る表象の歴史的変化に分析を加えることによって、現代意識の持つ特徴を本質的に捉え直し、現代日本の青年たちが抱える心理‐社会的課題を理論的・深層心理学的かつ実践的・心理臨床学的に見直そうとするものである。思想的研究は心理臨床実践や個別具体的な体験の世界と遊離しがちであり、心理臨床的・実践的研究は私たちのこころをとりまく集合的な文脈である文化・精神史的な背景を見過ごしやすい。本研究の挑戦的な意義は、集合的文脈と個別性の次元を架橋する試みにある。 研究初年度である2021年度は当初の予定通り、大学院生を中心とする研究協力者を募り、研究体制の基盤作りを進めた。この研究グループによって継続的に研究会を実施するなかで、<異界表象>および人間の精神史・心性史という思想的文脈に関する資料収集・整理、文献サーベイを進めた。さらに、前近代的な<異界表象>のあり方を捉えるためのフィールド調査地を近畿圏を中心に選定し、フィールドワーク調査を実施した。 二年目である2022年度は、新型コロナウイルス感染症がいまだ収束の兆しを見せず、それに伴って研究グループで密度の濃い作業を実施することが困難であった。そのため、現代の<異界表象>を分析するための「座標軸」を仮説的に議論・検討していく作業はその途上となっている。ただし、前近代的な<異界表象>についてのフィールドワークを昨年度の近畿圏よりも拡大して青森県下北半島および和歌山県高野山にて実施し、その現代的意義に関する深層心理学的な検討を加えることができた。今後はそれを青年の社会化と心理的境界に関する調査研究や臨床事例研究につなげることが課題である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究実績の概要にも記した通り、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、研究グループでの密度の濃い作業を行うことが困難であった。そのため、現代の<異界表象>を捉えるためのサブカルチャー領域を中心とする作品群の選定と綿密な検討を集中的に行うことができず、座標軸の仮説構築には至っていない。しかし、前近代的な<異界表象>のあり方を捉える資料収集・整理、フィールド調査については、前年度に実施した近畿圏以外にも2022年度は青森県下北半島および和歌山県高野山での調査を進めることができ、その現代的な意義について深層心理学的な検討を行った。また、<異界表象>や精神史・心性史に関する文献サーベイやその意義についての検討も進めている。さらに、臨床実践における自験例をもとに、本研究の知見が実際の心理臨床事例を理解する上でもつ有効性についても検討を加えているところである。全体的な研究計画にはやや遅れが見られるものの、今後につながる知見や視点を蓄積できたと考えられる。 今後、フィールド調査や文献研究から得られた知見・視点を参照軸にしつつ、現代に至る<異界表象>の歴史的変化に反映された「この世」と「あの世」を巡るコスモロジカルな境界、およびその内面化されたものとしての心理学的な境界の現代的な特徴を明らかにしたうえで、青年の社会化と心理的境界に関する調査研究や臨床事例研究を行っていく。
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Strategy for Future Research Activity |
2023(令和5)年度は、新型コロナウィルスによる活動制限が解除され、ようやく以前のような研究グループでの作業が再開できる。<異界表象>のあり方を捉える資料収集・整理を引き続き推し進めながら、2021年度から進めてきた精神史・心性史に関する知見を参照軸にしつつ、<異界表象>の歴史的変化に反映された「この世」と「あの世」を巡るコスモロジカルな境界、あるいはその内面化されたものとしての心理学的な境界の現代的な特徴を明らかにしていくことが課題である。 前近代的な<異界表象>を分析・参照しつつ、とりわけ現代的な<異界表象>のイメージマップを描き出していくための、また従来的・前近代的な<異界表象>との差異や変化を捉えるための指標となるような「座標軸」を仮説的に議論・検討していく。 そのうえで、現代青年の社会化と心理的境界に関する調査研究を行っていくとともに、これらの研究活動から得られた現代意識の問題(心理学的境界と社会化の問題)に関する知見が、実際の心理臨床事例を理解する上でもつ有効性についても自験例をもとに検討を加えていく。
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Causes of Carryover |
2022年度も新型コロナウイルス感染症の収束の兆しが見えず、エフォートの見直しを迫られた。研究代表者によるフィールド調査は実施できたものの、大学院生と体制を構築した研究グループにおいて、当初予定していたような密度の濃い集中的な作業を実施することができなかった。そのため、サブカルチャー領域のなかから現代の<異界表象>を代表すると考えられる作品を抽出する作業、そこに表現されている<異界表象>の分析を通じて、現代的な<異界表象>の特徴をマッピングしていくための、また従来的・前近代的な<異界表象>との差異や変化を捉えるための指標となるような「座標軸」を仮説的に議論・検討していく作業を実施することができず、人件費・謝金の支出が当初の予定よりも少なくなった。 また、学会が現地開催されなかったことなどにより、旅費の使用がなくなった。その代わりに、文献サーベイやフィールドワークのための物品に経費を計上した。 2023年度は、研究グループでの作業や研究協力に伴う人件費・謝金、旅費などに使用していく予定である。
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