2021 Fiscal Year Research-status Report
中米・カリブにおける感覚のエスノグラフィーに関する実証研究
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21K18363
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Research Institution | Kyoto City University of Arts |
Principal Investigator |
滝 奈々子 京都市立芸術大学, 芸術資源研究センター, 非常勤講師 (70571553)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
池田 光穂 大阪大学, COデザインセンター, 教授 (40211718)
牛島 万 京都外国語大学, 外国語学部, 准教授 (50306461)
冨田 晃 弘前大学, 教育学部, 准教授 (60361002)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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Keywords | 感性 / エスノグラフィー / 感覚 / グアテマラ / ホンジュラス / プエルトリコ / 感性のエスノグラフィーの書記法 |
Outline of Annual Research Achievements |
COVID-19の流行があったため、現地調査遂行が不可能となったが、全員が感覚のエスノグラフィーに関する基本文献を収集しそれらを分析した。滝と池田らは「中米・カリブにおける感覚のエスノグラフィーに関する実証研究」に関するHPを作成、感覚経験の人類学:リーディングスを制作し基礎資料集とした。また、滝がかつて収集したエスノグラフィー資料をもとに、『音と感覚のエスノグラフィー:マヤ・ケクチの民族音楽学』を公刊し、本研究課題に寄与した。また、滝は、記譜に表されないが身体感覚と密に関係する音について論究した。さらに滝は、音楽活動という経験と社会活動への情動的接続について試論を展開した。牛島は、1846-1848年の米墨戦争における長年の歴史研究をもとに米墨戦争とメキシコの開戦決定過程について言及した。そこで、メキシコ側の開戦決定における敗戦予想を上回る動機としての大義たる「名誉」の問題を考察している。本研究課題との関連では「名誉」が引き起こす行為とそれに伴う情動の分析を、本研究課題の貢献と評価することができる。また牛島は、19世期米国からメキシコへの逃亡黒人の奴隷の動きに着眼し、ラテンアメリカから米国への人の移動を俎上に載せた。それらはプエルトリコの新しい研究視点を貢献することとなった。冨田は、ガリフナの宗教民族誌について考究し、本課題に関する地域研究への寄与をおこなった。以上のように、各メンバーが当該地域のエスノグラフィーに関する考察を行い、感性のエスノグラフィーの根源性が浮き彫りにされつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究会の開催、またメンバー個別の活動などから本研究課題の目的とする感性のエスノグラフィーの書記法の確立に迫った。第1回研究会を2021年9月にオンラインでおこない、今後の課題について話し合いをもった。とくにCOVID-19のため、現地調査不可能な場合を想定し、メンバー全員で共有できるような先行文献研究の方法について討議した。第2回研究会は2023年3月にオンラインでおこない、前回研究会で提案された先行研究を網羅するべく、代表者滝が既存の研究を参照し「感性のエスノグラフィー」の理論構築に関する発表を行った。滝は、音楽と身体について研究会や学会で多角的に考察し、本研究課題のコアとなる身体感覚についての知見を得た。そして民族音楽学で再考されていると記譜法を、リュート・タブラチュアの記譜法の事例から報告した。池田は、クロノトポスとしてのラテンアメリカの地域研究から「ラテンアメリカらしさ」のエスノグラフィーについて考察している。それらをグアテマラ内戦の秘密墓地の遺骨発掘との関連性のなかで研究している。また池田は著作『暴力の政治民族誌』にもとづき、トラウマと情動との関係を、世界各地の暴力の民族誌研究者とシンポジウムで議論をおこなった。冨田は、映像作品「ドゥグ:ガリフナの祖霊信仰」を上映企画しガリフナの憑依儀礼を紹介した。牛島は、アメリカ合衆国の普遍的価値観と受容を取り上げ、本課題における展望を提示した。
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Strategy for Future Research Activity |
海外調査の再開については、いまだ不透明であるが、2022年度からは現地(グアテマラ、ホンジュラス、プエルトリコ)の状況を把捉しながら、可能な限り現地調査へ行くことを念頭に入れている。また、遠隔会議システムによる研究会の場を設け、メンバーそれぞれが常に密に情報交換をし、積極的に本課題に関する論文執筆、発表、を行う。現地調査遂行可能な場合、滝は、グアテマラ高地に居住するケクチやマムのマヤのポピュラー音楽や生活音を感性のエスノグラフィーの手法を用いて調査する。冨田は、ホンジュラスを中心にマルチサイトなガリフナ研究、とくに絵画が描かれる過程、観覧する側の諸感覚について調査する。池田は、グアテマラ高地におけるポピュラーカルチャーにおける新しく出現した食文化を分析し、味覚の点から調査する。牛島は、嗅覚と触覚の感性に注目しプエルトリコで興隆する音楽・舞踊文化の感性を省察する。現地調査で得た情報は随時共有し、討議する予定である。ラテンアメリカ学会、人類学会、国際伝統音楽学会などでの発表を行い、幅広く「感性のエスノグラフィー」の書記法や、感性のグローバリゼーション化の視点を切り拓く目的について発表し、多様な研究者と意見交換を行う予定である。現地調査へ行くことが困難な場合は、引き続き先行文献調査を積極的に行い、メンバー各自が当該地域のエスノグラフィーをアップデートし、横断的な意見交換を行う。
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Causes of Carryover |
2021年度はCOVID-19のため、海外調査が困難であったが、2022年度からは現地(グアテマラ、ホンジュラス、プエルトリコ)の状況を把捉しながら、安全確認を怠らず、できる限り現地調査へ行くことを念頭に入れている。引き続き、研究会の場を設け、メンバーそれぞれが常に密に情報交換をし、積極的に本課題に関する論文執筆、発表、を行う。 現地調査の推校が可能であれば、その旅費へ充填する。 また、同時に先行研究図書、論文の収集に努める。
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Research Products
(20 results)