2023 Fiscal Year Research-status Report
Innovation of the Homo Sapience arrival study to the Japanese archipelago in the Initial Upper Palaeolithic period
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21K18390
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Research Institution | Nara National Research Institute for Cultural Properties |
Principal Investigator |
国武 貞克 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, その他部局等, 主任研究員 (50511721)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2025-03-31
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Keywords | 新人到来 / 後期旧石器時代初頭 / 大型石刃 / 小石刃 / 斜軸尖頭器 / 発掘調査 / 3万7千年前 / 年代測定 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和5年度には日本列島最古の石刃石器群の類例を検討するために、3万6千年前よりも古いと見込まれる遺跡の発掘調査を試みた。昭和46年に発掘されていた大型石刃の資料からみて、北八ヶ岳麦草峠直下の標高1700mのトリデロック遺跡の発掘調査を行った。その結果、3万5千年前の八ヶ岳第4軽石層の下部の暗色帯から、麦草峠産黒曜石を素材とした石器集中部1か所を検出した。放射性炭素年代測定の結果、較正年代で3万6千900年前の年代値が得られ、最古の石刃石器群である香坂山遺跡とほぼ同時期の遺跡であることが判明した。この石器群の内容を詳しく分析している最中であるが、中型石刃を組成し、小石刃核と小石刃、及び定義的な斜軸尖頭器である尖頭形剥片を組成する石器群であることが分かっている。現在整理分析中ではあるが、本研究で目標としていた列島最古の石刃石器群の貴重な類例を得ることが出来た点で非常に大きな成果を得た。この石器群の技術組成は、大小の石刃と斜軸尖頭器の組み合わせを示す点では、香坂山遺跡と共通するが、小石刃核から観察される小石刃生産技術は大きく異なっている。その技術分析は今後の課題であるが、現在の所見では香坂山遺跡において確認している彫器状石核からの小石刃剥離ではなく、打面を作出したやや粗い楔形の石核からの剥離であり、中央アジアや北アジアの後期旧石器時代前期(EUP期)の小石刃生産技術と類似している。黒色安山岩の原産地近傍である香坂山遺跡と異なり、黒曜石を素材とする場合には、ほぼ同時期であっても異なる技術が発現していたことを示しており、最古の石刃石器群の新たな技術様相を把握できる可能性を示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究課題においては、列島最古の石刃石器群である香坂山遺跡と同時期の石器群を、香坂山遺跡とは異なる石材原産地で把握することを目指していた。その目的のもと同じ中部高地のうちで黒曜石原産地遺跡において、過去の発掘データと地形、及び露頭断面から観察される堆積状況、3万5千年前の八ヶ岳第4軽石の降下範囲を勘案して、トリデロック遺跡を発掘調査し、当初の目的通り、香坂山遺跡とほぼ同時期の石器群の検出に成功した。列島最古級の遺跡の発掘調査は決して容易ではなく、目標を立てたとはいえ新たに確実な新資料を得ることは非常に困難である。このため、その可能性のある資料を入手できれば、十分な進展と考えていたが、それ以上に1度目の挑戦により、香坂山遺跡と対比可能な完全な新資料を入手することが出来た。この点で、当初の計画以上の進展がったと評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
令和5年度に新しく獲得した最古の石刃石器群の類例であるトリデロック遺跡の発掘資料を分析して論文投稿により成果を公表する予定である。香坂山遺跡との比較を通じて、日本列島に到来した最初期のサピエンスによる最古の石刃石器群の技術組成の全体像を可能な限り復元する。この他に、トリデロック遺跡では石刃製作跡を検出することが出来なかったため、北八ヶ岳蓼科山付近において、和田峠産黒曜石に関連した後期旧石器時代初頭の石刃製作遺跡を探索し、可能であれば試掘調査を試みる。これらにより列島最古の石刃石器群の技術的な特徴について明らかにするとともに、それを中央アジアや北アジアの同時期の石刃石器群と比較検討することにより、本研究課題が目標としていたユーラシア大陸北回り現生人類の列島到来の可能性について、考古学的な手掛かりを得ることを目指す。
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Causes of Carryover |
予定していた広島県冠高原の発掘調査において、当初の想定以上の遺物量が出土した。このため、発掘調査の精度を高めるために年代分析等いったん情報を整理するために中断して、当初予定していた期間の半分程度の日数で終わらせた。残りの調査区を次年度の発掘調査に先送りしたため、次年度使用額が生じた。令和6年度はこの残りの調査区の発掘調査を継続する計画である。
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