2021 Fiscal Year Research-status Report
個別最適化された読解支援を提案する新たなオンライン読解力アセスメントの開発
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21K18512
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
森田 愛子 広島大学, 人間社会科学研究科(教), 教授 (20403909)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高橋 麻衣子 東京大学, 先端科学技術研究センター, 講師 (60534592)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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Keywords | 範読 / 黙読 / 冗長効果 / 内声化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,読解材料を範読 (他者が読み上げている音声を聞きながら黙読すること) する場合や音読する場合に生じるEVS (音声と読み手の視線のズレ) を測定して読み能力の関連を検討し,読解中の行動から読み手の読み能力を判定するアセスメントツール開発に着手することである。2021年度には次の2つの研究を実施し,範読,黙読時の読み手の音声情報利用についての基礎的データを収集した。 第一に,知見の少ない範読について,大学生を対象とし,読み能力によって音声情報呈示の有効性が異なるかを検討する実験を実施した。参加者は,モニターに呈示される文章を読み,逐語記憶課題と内容理解問題に回答した。その際,範読音声(あり・なし)×語彙数(高群・低群)の2要因を操作した。範読音声あり条件では,読解材料と同時に音声を呈示した。実験の結果,文章の難易度が高い場合,語彙数少群の読み手の場合,範読音声があると逐語記憶成績が高い傾向があった。語彙数多群では,音声がないと内容理解成績が高かった。文章の難易度が低い場合は,全体的に,音声があると逐語記憶成績が高かった。範読音声は,読み能力がある読み手にとって妨害的に働く冗長効果が生じることが明らかになった。 第二に,黙読時に頭の中で音声を再生する内声化について,成人を対象とし,内声化の実施の程度や再生する声の質についての調査を実施した。その結果,ほとんどの人が物語読解時には内声化を行った経験があるが,再生される声の質については,鮮明に特定の声で再生している読み手もいれば,曖昧な声で再生される読み手もいた。セリフなどによって明確に声を使い分けている読み手は,読書や物語世界により没入する読み方をしていた。黙読時の内声化のしかたによって,読み方が異なっていることが推測され,黙読における音声情報利用の重要性を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の3年計画のうち1年目にあたる2021年度の主な研究目的は,第1に読解時の読み方や音声呈示の有無によって,理解度が異なることを明らかにすることであった。第2に,小学生にとって最適な文章刺激を作成することであった。 第1の目的について,進捗した点は,上に述べた2つの研究により,読み方や音声呈示の有無の影響が明らかになったことである。範読や内声化については知見が少なく,理論的基盤を確立することは重要であった。遅れている点は,小学生を対象としたデータを収集していないことである。COVID-19の感染対策が必要な状況が長く続いたため,成人を対象とした検討しか行えなかったことが原因である。 第2の目的については小学生を対象とした実験を行う必要があるが,上と同様の原因により小学生を対象とした研究が行えず,当初計画より遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の3年計画のうち2021年度に実施するはずであった小学校1~6年生にとって最適な難易度の刺激作成については,当初,範読や音読や黙読を課す実験を実施する計画であった。このような実験実施が困難であった場合,刺激作成についてはデータ収集方法を質問紙調査形式にするという対策が考えられる。それとは別に,音声情報の呈示や頭の中での音声利用の効果が読み能力によって異なるかについての実験については,大学生を対象として行うことで理論的にはある程度推定することが可能になる。 2年目である2022年度に実施する予定であったEVS測定についても,基礎的データとしては大学生を対象として,読み能力や文章の難易度を操作して範読時と音読時のEVSを測定し,読解力レベルとEVSの関連を先に検討することで,小学生を対象とした実験をより適切に実施できると考えられる。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じたのは,進捗状況欄にも述べたようにCOVID-19の感染対策が必要な状況が長く続いたため,小学校での実験を行えなかったことが原因である。そのための実験機器の購入,また,実験者雇用やデータ分析のための費用,さらに旅費が発生しなかった。 2022年度には,より多くの実験実施を予定しているため,実験者雇用やデータ分析に「次年度使用額」を使用する。また,2021年度の成果を国際誌で発表するための英文校閲費にあてる。
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Research Products
(1 results)