2021 Fiscal Year Research-status Report
Non-equilibrium mechanics of cellular symmetry and migratory principle by active gel physics
Project/Area Number |
21K18605
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
前多 裕介 九州大学, 理学研究院, 准教授 (30557210)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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Keywords | アクティブマター / 人工細胞 / マイクロ流体デバイス / 合成生物学 / 秩序形成 / アクトミオシン / 非平衡物理学 |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞はエネルギーを消費し,変形しつつ自律的に運動する複雑な分子システムである.本研究ではアクチン細胞骨格とミオシン分子モーターのアクティブゲルを細胞サイズの油中液滴に封入し,その自律的運動の原理をマイクロ流体デバイスならびにソフトマター物理学の見地から明らかにする.アクチン繊維とミオシン分子モーターからなるアクトミオシン細胞骨格は自律的に動く柔らかなゲル(アクティブゲル)であり,細胞の極性形成やオルガネラの配置制御に重要な役割を果たしている.しかし,生細胞では数多くのシグナル伝達系が機械刺激への応答に関与しており,シンプルな原理に基づく理解を妨げる要因となっている. この問題を解決するため,細胞がもつ対称性の制御の本質を失わず,細胞内環境の複雑性を軽減した人工細胞モデルを確立する. 現在までに,アクチン細胞骨格,ミオシン分子モーターを内包した人工細胞にある種の脂質分子を添加することで自律的に運動する液滴となることを見出した.この自律運動に不可欠なダイナミクスが液滴内で発生するアクチン波である.このアクチン波の発生によって液滴が駆動力を得るメカニズムを調べるため,液滴と基盤との接触面積を変えると運動速度が増大することがわかり,内部のアクチン波の進行から基盤接触を介して力が伝達されていることがわかった.この力伝達を詳細に調べるためにアクティブゲルにもとづく理論モデルを構築した.人工細胞の膜直下でアクトミオシンがアクチン波を繰り返すことで,ずり応力が基盤に伝達されて反作用として液滴に作用する摩擦力が自発的な運動を駆動する.このメカニズムが実際に成立するか,微小流体デバイスを用いて実験的に検証を行ったところ,摩擦力と粘性摩擦とのバランスで定まる運動速度の幾何学的関係を説明できたことから,理論と実験が一致する結果を得ている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までに,アクチン細胞骨格,ミオシン分子モーターを内包した人工細胞にある種の脂質分子を添加することで自律的に運動する液滴となることを見出した.この自律運動に不可欠なダイナミクスが液滴内で発生するアクチン波である.このアクチン波の発生によって液滴が駆動力を得るメカニズムを調べるため,液滴と基盤との接触面積を変えると運動速度が増大することがわかり,内部のアクチン波の進行から基盤接触を介して力が伝達されていることがわかった.この力伝達を詳細に調べるためにアクティブゲルにもとづく理論モデルを構築した.人工細胞の膜直下でアクトミオシンがアクチン波を繰り返すことで,ずり応力が基盤に伝達されて反作用として液滴に作用する摩擦力が自発的な運動を駆動する.このメカニズムが実際に成立するか,微小流体デバイスを用いて実験的に検証を行ったところ,摩擦力と粘性摩擦とのバランスで定まる運動速度の幾何学的関係が説明され,理論と実験が一致する結果を得た.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究より,細胞サイズの空間で自律的に収縮するアクトミオシンだけで自発的な運動を実現することができ,周辺環境の幾何学的性質で定まる力のバランスが運動速度を決定することがわかった.現在は本研究内容を学術雑誌に投稿し,論文改訂中である.今後の研究計画として,自律的運動を示す人工細胞がみせるアクトミオシン収縮による変形ダイナミクスの解析を進める.変形にはアクトミオシンゲルと脂質膜の結合が重要な役割を果たしており,境界近傍での力のバランスを含む理論モデルの構築を行う.さらに,マイクロ流体デバイスを用いて油中液滴では取りえない複雑な境界形状のもとで,アクチン波がどのようなダイナミクスを示すかを明らかにする.得られる事件結果を,我々が構築したアクティブゲルの理論モデルが示すダイナミクスと比較し,必要となる力学的要因が十分であるかを検討する.以上の結果を統合して,細胞内の配置対称性,並進対称性,回転対称性などがアクトミオシンゲルによっていかに制御されるかをソフトマター物理学の見地から明らかにする.
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