2021 Fiscal Year Research-status Report
地盤表層域における熱水放出の状態変化に関する実験観測的研究
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21K18784
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
青山 裕 北海道大学, 理学研究院, 教授 (30333595)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
西村 太志 東北大学, 理学研究科, 教授 (40222187)
田中 良 北海道大学, 理学研究院, 助教 (30804926)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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Keywords | 間歇泉 / 噴気活動 / 熱水流動 / 地下水 / 多項目同時観測 / 熱輸送効率 / 表面現象 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度である2021年度は,北海道南部のしかべ間歇泉で本研究課題の開始前から実施している多項目連続観測を継続して噴出孔内の映像撮影や圧力測定を試みたほか,鬼首間歇泉で取得した熱赤外カメラ及び空気振動観測のデータ解析,霧島硫黄山の噴気観測,地下構造の深部からの熱水供給率を変化させたときの熱水流動の応答に関する数値計算などを実施した. しかべ間歇泉では,間歇泉噴出孔の保守業者の厚意により,6月および9月の作業時に業者所有の孔内撮影用カメラを間歇泉内に挿入し,孔内の状況把握や孔底深度の計測,噴出時の気泡発生状況の動画撮影等を行った.この調査により,掘削深度は約27mであり,ケーシング部分は上部の20mで下部の約7mは裸孔となっていることが始めて確認された.また,井戸の下端には熱水溜まりのような空洞は存在せず,ケーシング下端や裸孔部分の亀裂から井戸内に高温水が流入していることが明らかになった.1月には研究費で購入した圧力センサーを用いて噴出中の孔内圧力を測定し,噴出サイクルを通した井戸内圧力の時系列データを取得した.この調査時には,噴出ごとの熱水噴出体積の推定を試み,過去に見積もられた400L程度であることを確認した. 鬼首間歇泉では,間欠泉噴出時に観測した熱赤外映像および空気振動観測のデータ解析を進めた.熱赤外映像は時間的な差分を取ることで短周期変動を強調し,熱水の上方への噴出を調べた結果,周期1秒以下の調和振動が見られることを見出した.空気振動にも同様の振動が見られることから,噴出孔の極浅部で共鳴現象が起きていることが示唆された. 宮崎県の霧島硫黄山では,自然の噴気について熱赤外映像の試験観測を行った.予備的な解析では,連続的な蒸気を噴出する噴気にも調和振動的な振る舞いが認められることから,間歇泉現象や噴気現象には浅部に共鳴現象を励起する類似のプロセスがあることが示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
しかべ間歇泉における観測データの蓄積は予定通りに進んでいる.しかべ間欠泉では,噴出孔の口元と口元上方40cmほどに熱電対や白金抵抗体の温度センサー,噴出孔から数mの範囲に空振計と傾斜計を設置し,長期の連続観測を続けている.この他,観測機器の点検に併せて,噴出孔内に圧力センサーや温度センサーを挿入し,数時間程度の孔内圧力・温度の観測も実施した.また,本申請の開始当初には想定していなかった噴出孔内の映像調査が,間欠泉保守業者の好意によって実現できたことは大変大きい.他の間欠泉に関する先行研究では噴出孔深部に熱水溜まりが描かれており,しかべ間欠泉に展示されている説明パネルも同様であるため,我々も噴出孔の深部に熱水が貯留された空間の存在を想定していた.しかし,映像調査からは温泉掘削に伴う27mの鉛直管であることが判明し,下部7mにある裸孔部分の壁面亀裂から熱水が流入していることが確認された.この点では,当初の想定を上回る貴重な成果が得られている.鬼首間欠泉については,これまでの観測で得られた熱映像や空振データの解析が進み,熱水噴出時に周期1秒以下の振動的な現象が見出された.体感ではあるが,しかべ間欠泉でも噴出時に周期的な変動が認められることから,沸騰型間欠泉で共通に存在する新しい現象を見出した可能性が高い. 火山の噴気地帯における調査も,霧島硫黄山で実施できた.自然の噴気にも周期的な変動が確認できたことから,間歇泉の噴出と類似した物理過程の存在が示唆される.観測可能な季節にコロナ禍で出張抑制等の指示があった中で,噴気地帯の調査が1火山でも実施できたことは幸いであったが,次年度は少し調査対象を増やしたい. 地下水流動シミュレーションについては,地下構造の違いによる熱水放出形態の違いや深部からの熱水供給率を変化させた時の系の応答・地盤変動の違いについて予備検討を行った.
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度も引き続きしかべ間欠泉での連続観測を最優先で継続する.観測を行う中で,温泉成分の析出・付着による噴出孔の内径変化が大きいことが判明した.観測データに表れる噴出周期の長期的・短期的変化の要因を丁寧に検討するには,降水量や大気圧変化といった気象要素や季節変化の影響と,噴出孔の内径変化の影響を分離するための連続的な長期データを取得することが重要である.また,鬼首間欠泉と同様な噴出時の周期的な変動を客観的データとして取得するため,これまでは用いていなかった熱映像装置などによる観測も実施したい. 噴気地帯の調査では,霧島硫黄山と同様の熱映像装置による噴気観測を他火山の噴気地帯で実施する.また,噴気地帯の近傍で土壌の空隙率や鉛直温度分布を調べ,地表面への水蒸気や熱の輸送状態を検討する.有珠山の銀沼火口内にある噴気地帯は,調査候補地の1つである.この噴気地帯では,過去の学生実習等での経験で,地下1mには沸騰する熱水が存在するにも関わらず,地表には明瞭な噴気孔が存在しない領域があることが確認されており,本課題の調査地域として適当であると考えられる. 室内実験については,実験に用いる器具の一部が導入できず,2022年度への予算の繰越しとなった.早急に検討を行い,噴気地帯の再現をするための実験環境を整えたい. 熱水流動シミュレーションについては,計算の空間スケールを小さくした検討に取り組む.キロメートルスケールの流動を想定して開発された既存の熱水流動シミュレータが,実際にどのくらいまで小さなスケールの現象を扱えるかはよく分かっていない.まずは間欠泉の空間スケール(数10mスケール)での熱水流動を再現できることを確認し,引き続いて室内実験の空間スケール(数10cmスケール)の流動計算の可能性を検討する.
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Causes of Carryover |
コロナ禍による出張制限のために噴気地帯の調査を実施しづらかったこと,室内実験のガラス器具や電熱器具の作成・導入まで到達できなかったことが,当初予算の繰越しにつながった.2022年度は大学でも対面講義が再開され,野外調査の出張にかかる制限も大幅に緩和されることから,遅延した噴気地帯の調査は実施できると考えている.室内実験の器具で未調達の物品についても順次調達・作成を進める.これにより,繰越金を含めて当初予定に沿った研究費の執行ができる見込みである.
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Research Products
(3 results)