2021 Fiscal Year Research-status Report
Development of zero TCR film using semiconductor-metal transition
Project/Area Number |
21K18805
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
須藤 祐司 東北大学, 工学研究科, 教授 (80375196)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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Keywords | 温度係数 / 高抵抗材料 |
Outline of Annual Research Achievements |
様々な電子デバイスの高性能化、安全性の向上、省エネルギー化の達成には、それらを駆動し制御する根幹を支える「抵抗器」の高精度化が必須であり、将来の情報化社会や省エネルギー社会の発展に向けては、広い温度範囲にて抵抗値が変化しない“ゼロ温度係数(TCR)”を持つ抵抗材が不可欠である。本研究では、ゼロTCRの実現に向け、相変化型カルコゲナイドが示す半導体相-金属相転移をはじめ、相制御及び半導体/金属相界面制御を通して、材料が元来持っている「温度変化に伴って生じる電気抵抗の変化」という性質を示さない常識を打ち破る材料創成を目指している。以下に本年度の主な実績を記述する。 Cu2GeTe3相変化化合物をについて、高温熱処理した試料ほど比抵抗は低く、温度係数は負の傾きから正の傾きへと変化した。パーコレーションモデルを用いて、各温度まで加熱した薄膜の金属的結晶の体積分率を、各試料の比抵抗から算出した結果、金属的結晶の増加に伴って温度係数が正から負に変化することが明らかとなった(国内学会1件発表)。 また、本年度は、相変化型のカルコゲナイド化合物だけではなく、190μΩ1cm以上の非常に高い比抵抗を有するFe-Cr-Al-Co合金についてもそのTCRに及ぼす組織の影響を調査した。その結果、不規則bcc(A2)相と規則bcc(B2)相の二相分離を生じる合金は、高比抵抗を有すると共に、温度係数が10 ppm/℃程度の極めて低い値を示すことを見出した。FeCrAlCo合金(各元素の濃度が25at.%)はホイスラー合金であることが知られており、その規則構造に依存してハーフメタル性を有することが報告されており、低い温度係数の要因として磁気特性が関連していることが示唆された(国内学会1件発表)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本期間では、先ず、Cu2GeTe3カルコゲナイド化合物薄膜の低温度係数化について、熱処理温度と温度係数の関係を詳細に調査した。高い温度で熱処理された薄膜ほど比抵抗が低いという結果が得られた。この結果は熱処理によって比抵抗の低い金属的結晶相の体積分率が増加したことを示している。温度係数は、熱処理温度が高くなるに伴って負(半導体的)から正(金属的)へと変化した。パーコレーションモデルを用いてある温度に加熱した薄膜における金属的結晶の体積分率を、各熱処理薄膜の比抵抗から算出した結果、金属的結晶相の増加に伴い温度係数が正から負に変化することが確認できた。また、このモデルを拡張して、薄膜の比抵抗が半導体相および金属相の体積分率のみに依存すると仮定した場合の温度係数を計算したところ、計算値と実験値には差があり、その差は、金属結晶の体積分率が大きくなると小さくなることが明らかとなった。即ち、半導体相および金属相の体積分率の他に、半導体相/金属相界面に生じる接触抵抗が温度係数に影響を及ぼす可能性が示唆された。 次に、高比抵抗Fe-Cr-Al-Co合金の低温度係数化についても調査を開始した。本合金は、熱処理によりナノサイズレベルでA2とB2の二相分離組織を示すことが分かった。各組成合金の比抵抗と25℃~100℃までの温度係数の関係を調べたところ、比抵抗が100~150 μΩcmでその符号が変化した。この比抵抗と温度係数の関係は、Mooijの法則と呼ばれる負の相関関係の傾向と一致した。また、本合金は、170℃程度まで単調に比抵抗は増加し、更なる昇温により比抵抗は大きく低下することが分かった。即ち、170℃近傍で、温度係数が正から負に変化した。FeCrAlCo系ホイスラー合金はハーフメタル性を有することが報告されており、磁気物性の変化が関係している可能性が示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に引き続き2022年度以降も、Cu2GeTe3薄膜をはじめとする相変化型カルコゲナイドの電気伝導に着目して調査を進める。中でも、半導体(負の温度係数)-金属(正の温度係数)相転移を利用した広温度範囲対応ゼロTCR抵抗材の材料設計クライテリアを確立する。広温度範囲を実現するには、高い相転移温度をもつ相変化型カルコゲナイド薄膜が必須であり、相安定性の観点からも検討する。また、これまでの知見を基に、半導体相/金属相界面の影響の有無、ならびにその寄与の相分率依存性を引き続き調査する。特に、パーコレーションモデルを用いた解析手法を構築し、定量的に温度係数と体積分率の関係を明確化する。 さらに、一般的に、比抵抗の増加に伴い温度係数は小さくなるが、ある比抵抗値以上では負の温度係数を呈する事が知られている(Mooij相関)。我々は、Fe-Cr-Al-Co合金が、そのMooij相関から外れることを見出している。これまでの知見では、この相関からの逸脱は、内部の微細組織や磁気物性に起因していることが示唆されているが、それらについて引き続き調査を進める。また、2022年度では、Cu2GeTe3やFe-Cr-Al-Co合金系に囚われることなく、MnTeといった他の化合物やFe系合金について、極めて小さな温度係数を有する高比抵抗材料についても評価を進め、温度係数に影響を与える因子を明らかにする。以上について得られた結果を取りまとめ、成果の発表を行う予定である。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の影響のため、学会等が全てオンラインにて開催されたため出張費が全くかからなかった。また、本年度は新しい材料の電気特性評価をメインに実験が進んだため、透過電子顕微鏡や光電子分光測定といった共通設備装置を使用する必要がなく、その他の経費も支出がなかった。本年度得られた知見を基に、次年度には共通設備を用いた内部組織や化学結合状態の評価を進める計画である。 また、サンプル作製に必要なスパッタリングターゲットや金属材料が、当初想定したよりも消耗が少なく、また、組成についても調整が想定よりも順調に進んだ。それ故、予定よりも長く同一のターゲットを本研究計画に供する事が出来き、種々の検討を行う事が出来た。従って、今後に使用するターゲット組成や金属材料種を詳細に検討するため、その分であるターゲット購入費用分を次年度へ繰り越した。次回ターゲット組成については、前年度の結果を踏まえて決定し本研究を遂行する。 一方、本年度の電気特性計測にあたって、極めて低い温度係数を示す材料については、現状よりも分解能などが更に高い計測備品(電圧計測機など)が必要であることも分かってきており、次年度はそれら計測備品の購入を計画している。更に、温度特性評価のための電気炉用の真空備品やヒーターなどの備品を購入して計測装置を強化し、電気特性評価を加速する。
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