2021 Fiscal Year Research-status Report
New development of nanofiber air filter beyond single fiber theory
Project/Area Number |
21K18846
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
瀬戸 章文 金沢大学, フロンティア工学系, 教授 (40344155)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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Keywords | エアフィルタ / ナノファイバ / エアロゾル / 単一繊維捕集理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
マスクや空気浄化装置等に使用される「エアフィルタ」の性能は、捕集効率と圧力損失で表され、一般的に両者はトレードオフの関係にある。単一繊維捕集理論(SFC理論;Kirsch and Stechkina,1978)によれば、繊維が微細化すると、さえぎりによる捕集効率が向上するとともに、流体の滑り効果による圧力損失の低減により、フィルタ性能の大幅な向上が予測される。近年のナノメートルオーダーの微細繊維(ナノファイバ:NF)の製造技術の進歩とともに、そのエアフィルタへの応用研究が進められているが、多くの研究で用いられている高分子製のNFは、機械的強度が低く、繊維充填率が高いフィルム状であるため、表層ろ過となり、SFC理論で予測される性能が十分に得られないという大きな欠点があった。本研究では、繊維径100nm前後のNFからなるエアフィルタを用い、流体の不連続性と、SFC理論では考慮されていない様々な捕集機構について検討を行った。 SFC理論の限界を追究するためには、NFと単一粒子の相互作用の解明が重要となる。そこで、様々な試験粒子(液滴、固体ナノ粒子など)をエアロゾル状態で発生させて、NFを含有するハイブリッドエアフィルタに流通させて、マクロなエアフィルタ性能(捕集効率、圧力損失)を実験的に求めた。また、今年度は特に、球形の標準粒子(ポリスチレンラテックスおよびNaCl)を用い、繊維表面における粒子1個ずつの捕集位置と流れ方向に対する角度を、電子顕微鏡内で計測した。 また、ナノファイバ表面での粒子の衝突・沈着過程を評価するために、繊維の充填構造を変えたエアフィルタを調整し、電子顕微鏡内で、複数の繊維間からなる繊維束(バンドル)や、交錯点(クロスポイント)において捕集・安定化された状態の粒子の割合を実験的に求めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今後理論計算を行うための基礎データとなる、ナノファイバを含むエアフィルタのマクロな捕集特性と、複数の繊維間からなる繊維束(バンドル)や、交錯点(クロスポイント)において捕集・安定化されたミクロ状態の実験データが得られており、研究はおおむね順調に進展している。特に、実験で用いたナノファイバにおいて、SFC理論の基礎となっている単一繊維によって捕集された粒子の割合が半数以下であることが判明しており、従来の理論では考慮されていない複数繊維捕集の理論展開のきっかけとなるデータが得られている。 また、ナノファイバを複合化したエアフィルタの充填構造を評価するために、電子顕微鏡を用いて繊維間距離のデータを定量的に解析することに成功している。このことにより、複数繊維による微粒子捕集に関する基礎データが得られている。 一方ナノファイバを含むハイブリッドエアフィルタの調整においては、繊維径の分布や、繊維の曲がりなどによって、エアロゾルの捕集状態の解析が必ずしもうまくできないケースも見られている。今後は画像解析などを組み合わせることで、より精度よく、複数繊維捕集の割合を定量化できる手法を開発する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
ナノファイバ表面での粒子の衝突・沈着過程を「可視化」するために、繊維まわりの単一粒子の軌跡と付着確率を数値計算で求める。そのために、繊維表面での流体の不連続性(滑り効果)を考慮した流れ関数により、単一繊維、あるいは複数の繊維集合体周りの流れ場を求め、粒子は流線に沿って流れるとして、粒子が繊維に衝突する臨界軌跡を求める。これを1)で求める単一繊維捕集効率の実験値と比較することによって、粒子がNF表面で固定化される限界値(流れ方向に対する接触角度)を算出する。この実験と理論との比較を緻密に繰り返し、粒子径、繊維径、流速をパラメータとして、粒子がそれより微細なNFに接するときの、付着・安定化の条件を求める。さらに、そのときの粒子が有する運動量と粒子‐繊維間のファンデルワールス力の関係を、分子動力学計算等を援用することでミクロな観点から解析する。最終的に、これをマクロなエアフィルタ性能(捕集効率、圧力損失)にスケールアップして、NFエアフィルタの設計指針を得る。 以上の実験的・理論的研究によって得られる知見は、NFによる粒子捕集に対する新たな理論体系の突破口を切り拓くものであり、現在、全世界で求められている超高性能エアフィルタの開発に寄与することを目指す。
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