2021 Fiscal Year Research-status Report
走査トンネル顕微鏡を使った分子操作によるフラットバンドエンジニアリング
Project/Area Number |
21K18898
|
Research Institution | National Institute for Materials Science |
Principal Investigator |
吉澤 俊介 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 先端材料解析研究拠点, 主任研究員 (60583276)
|
Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2023-03-31
|
Keywords | 走査型トンネル顕微鏡 / 原子層 / 表面・界面 / 原子・分子操作 |
Outline of Annual Research Achievements |
走査型トンネル顕微鏡(STM)は、物質表面の原子配列を観察するだけでなく、表面に吸着した原子や分子一つひとつを動かす用途に使うことができる。STM を使って原子や分子を規則正しく並べたいわば「人工格子」を作ると、その吸着物の配列に応じて表面電子状態を変化させることができる。しかし、原子・分子操作の研究のほとんどは貴金属単結晶基板上で行われており、表面に特殊な電子状態を作ったとしても、物性は金属基板のバルク特性で決まってしまう。そこで本研究では表面の電子状態だけが巨視的な物性を支配する原子層物質に着目する。原子層物質の表面に吸着した原子や分子の操作により表面電子状態を変調し、超伝導転移温度をはじめとした物性の制御を図る。この目的のためには多数の原子・分子を精度良く操作する必要があるので、STM 制御のプログラミングも進める。 2021年度は、銀基板上の鉄原子を用いて数十個規模の原子操作の自動化を行い、大規模化に向けた課題を洗い出した。一連の手続きを一般的な問題として取り扱える要素に分解し、分解された各過程をできるだけ既存のライブラリを利用して実装する方針で進めた。これをPython、LabVIEW、および STM コントローラの LabVIEW インターフェースを利用して実装した。また、第一原理計算による原子層物質と吸着原子・分子の組み合わせ探索に向けて、インジウム原子層と一酸化炭素分子の組み合わせに対する分子吸着サイトを求めた。さらに、高精度な原子操作に必要な格子位置(変位)検出のプログラム実装を行った。これを試しに NbSe2 の電荷密度波状態に適用したことで、電荷密度波ドメイン構造の可視化にも成功した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
自動化できている原子・分子操作の規模は数十個規模で予定より少ない。その一方で、第一原理計算による吸着構造の計算が可能になったことで、対象とする原子層と吸着物の組み合わせの事前探索が可能になった。他にも当初は想定していなかった副産物的な成果も実験で得られている。総合するとおおむね順調に進展していると言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、より多数の吸着原子・分子の安定した操作を可能にするため、原子操作自動化の処理において、操作のエラー検知と修正、基板の結晶格子を参照した位置指定の仕組みを実装する。また、原子層物質を基板に用いた実験も行う。基板としてはインジウム原子層のほか、遷移金属ダイカルコゲナイドをはじめとする層状物質の単層膜も選択肢に含め、計算と合わせた物質探索を進める。
|
Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた主な理由は、COVID-19 により出張がキャンセルになったこと、液体ヘリウムを用いる極低温実験の一部を翌年度に回したことである。今年度は、未使用額を使って極低温実験の時間を多くとるとともに、原子層の成膜装置の整備、研究計画に必要な備品の修理、および計算機の利用料金に活用する計画である。
|
Research Products
(8 results)