2022 Fiscal Year Research-status Report
Development of Molecular Transformations with Carbonyl Nucleophiles
Project/Area Number |
21K18968
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Research Institution | Institute for Molecular Science |
Principal Investigator |
魚住 泰広 分子科学研究所, 生命・錯体分子科学研究領域, 教授 (90201954)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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Keywords | 光触媒 / 2電子移動 / カルビノールアニオン / 交差ピナコールカップリング |
Outline of Annual Research Achievements |
従来知られている光触媒反応のほとんどは励起状態触媒から反応基質への1電子移動によるラジカル発生に立脚した反応系であり,光触媒はラジカル開始剤の代替として利用されることが一般である。そして多くの光触媒利用による分子変換はラジカル型反応に則って遂行されてきた。すなわち有機分子変換の根幹であるアニオン/カチオンを経る反応を光触媒反応として遂行した例は極めて限定的であった。報告者は本研究初年度において,いくつかの光増感触媒と還元剤の組み合わせを光照射下で反応させカルボニル基への2電子移動(連続的1電子移動による2電子還元)を実現しカルビノールアニオンを与える触媒条件を見出した。例えばイリジウム錯体触媒を利用し可視光領域での光照射条件においてベンツアルデヒド類がベンジル型のカルビノールアニオンを与える。初年度においては発生したカルビノールアニオン種はプロトン化によってベンジルアルコールを,カルボキシル化によってマンデル酸を与えた。研究2年度目(令和4年度)においては,生じるカルビノールアニオン種を他のカルボニル分子と反応させることで従来成功例がほとんど知られていない交差ピナコールカップリングを実現した。さらには上述2電子還元の反応機構の解明,2電子還元によるカルビノールアニオン発生を高効率で実現する新しい触媒分子の設計・合成・機能発現に取り組みつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
初年度においては,本課題研究費の交付決定から半年にてすでに初期の計画であったカルビノールアニオンの発生を実践し,さらに求電子剤との反応を行うことでカルボニル化合物を求核剤とした光触媒反応系を見出すことができた。さらに2年度目においては, カルビノールアニオンを反応活性種とする先例の乏しい交差ピナコールカップリングへと展開し,さらには反応機構研究や次世代光触媒開発に進みつつある。その進捗や研究深度は当初計画を先行しており,計画以上の進展と判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
上述「研究実績」の通り,本研究においてはイリジウム錯体光触媒条件下におけるベンツアルデヒド類からベンジル型のカルビノールアニオンの発生と,そのカルビノールアニオン種からのプロトン化によるベンジルアルコール合成(プロトン化還元反応),カルボキシル化によるマンデル酸合成,さらには交差ピナコールカップリングの実現に道を拓き,またその反応機構研究にも注力しつつある。さらにはより扱いが平易な有機分子光触媒の設計を進めつつある。 今後はより強力な電子移動を実現するために,触媒の2光子励起を実現する触媒システムの構築を推進する。それにより,従来型光触媒では反応性に欠ける脂肪族アルデヒド,脂肪族ケトンに対応可能な触媒系を開拓する。発生したカルビノールアニオンとの反応剤として他のカルボニル分子やハロアルカン分子を用いることでより汎用性に富む炭素ー炭素結合形成反応へ展開する。
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Causes of Carryover |
課題初年度にあたる2021年度において(1)交付決定が9月であったこと,(2)研究に参加する予定であった人員(大学院生・留学生)がコロナ禍のため入国が再三にわたり延期になり,最終的には年度内の研究参加がなされなかったこと,(3)参加予定の学会が全てオンライン化となり旅費の執行がゼロであったこと,から予算執行が果たせなかった。 2022年度には(2)の留学生が研究開始の遅れを取り戻すべく前年使用予定であった経費(研究開始に掛かる器具,試薬などの消耗品物品費)を執行し研究の 迅速なスタートアップを促し,また前年に採用した短時間雇用職員(技術補佐)を継続して研究従事させることで研究の加速化をはかってきた。しかしなお初年度からの「しわ寄せ」として消耗品及び旅費に若干の余剰が生じたため,最終年度における研究の加速化とラストスパートを念頭に繰り越しすることとした。最終年度には前2年度を超えて反応のスケール化も試みることからより多くの消耗品が必要である。また最終年度であることから論文作成経費,学会発表経費も必要であり,繰り越し予算を有効に活用して研究成果を取りまとめたい。
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