2021 Fiscal Year Research-status Report
既存モチーフ配列を有さない革新的テルペン合成酵素の探索研究
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21K19065
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
葛山 智久 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (30280952)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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Keywords | テルペン / 生合成 / 遺伝子 / 酵素 / 環化 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該代表者は、既知のテルペン合成酵素とはアミノ酸配列相同性を示さず、また既知の金属結合モチーフをもたない、生物活性物質Xの生産に関与する新しいテルペン合成酵素Yを発見した。そこで、本研究では、新たに発掘する酵素の機能解析を行うことで、これまで誰も入手し得なかったテルペン化合物の発見を目的とした。 初年度は、テルペン合成酵素Y(TC2)をコードする遺伝子を大腸菌で発現させて組換えタンパク質を得て、機能解析を行うことを目的とした。TC2遺伝子をクローニングしたプラスミドpET-28a(+)-TC2で大腸菌BL21(DE3)を形質転換して、TC2が可溶性画分として得られる培養条件を検討した。その結果、TB培地を用いた際、誘導剤であるIPTGが10 microMでわずかに発現、100 microMではTC2は大量に発現したが、ほとんど可溶画分には検出されなかった。さらに、Hisタグを用いて組換えTC2を精製するため、Ni-NTAレジンカラムで精製を試みたところ、可溶性酵素として0.3 mg程度得られた。次に、この精製した酵素に基質と考えられたGGDPとMg2+を加えてインキュベートし、反応産物を酢酸エチルで抽出、濃縮後、GC-MSで分析したところ、TC2を発現させた組換え麹菌で生産された生物活性物質Xと同一物質であることが判明した。以上の結果より、TC2が生物活性物質Xを生合成する酵素遺伝子であることを明らかにすることができた。これは、生物活性物質Xの生合成遺伝子を同定した初めての例として重要な知見である。 加えて、酵母であるPichia pastorisを用いたTC2の組換え酵素の取得も検討した。しかしながら、市販のPichia Expression Systemを購入してTC2の発現を試みたが、この系ではTC2の発現はまったく検出されなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度は、テルペン合成酵素TC2をコードする遺伝子を大腸菌で発現させて組換えタンパク質を得て機能解析を行うことを目的とし、TC2を可溶性画分として得られる培養条件を検討した。その結果、わずかではあるが可溶性酵素が得られたため、次に機能解析を進めて、TC2が生物活性物質Xを生合成する酵素遺伝子であることを初めて明らかにすることができた。しかしながら、可溶性酵素のより詳細な解析を行うための酵素量の確保が難航していることから、来年度は、精製酵素の量を増やすことに注力する。 その他に、海綿由来のゲノム配列とヒトのマイクロバイオーム中のあるバクテリアのゲノム配列から、機能未知のテルペン環化酵素をコードすると予測される塩基配列を見つけたが、機能解析にはまだ進められなかった。担当学生が休学してしまったことが、やや遅れている一番の原因であるが、今年度には復帰することを確認できているため、計画通りに進めることができる。
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Strategy for Future Research Activity |
生物活性物質Xを生産するテルペン合成酵素Yを異種発現させて精製することを推進する。そのため、これまでは大腸菌と酵母では発現がうまくいかなかったため、今後は、生物活性物質Xの異種生産が確認できている麹菌での発現を試みる。 海綿由来のゲノム配列から、機能未知のテルペン環化酵素をコードすると予測される塩基配列を見つけることに成功した。加えて、これまでに、ヒトのマイクロバイオーム中のあるバクテリアのゲノム配列からも、テルペン環化酵素をコードすると予測される塩基配列を新たに見つけることに成功した。ただし、いずれもアミノ酸配列からは、これらの酵素が何を生産するのかはまったく予測できていない。また、このヒトマイクロバイオーム由来のバクテリアが特殊なテルペンを生産するとの情報もなく、また実際に生産するか否かの情報もない。そこで、今後は、まずはこの候補配列の合成DNAを購入して、大腸菌で高発現して組換えタンパク質を調製する。タンパク質が可溶性で発現しない場合には、発現誘導条件や大腸菌宿主の変更、シャペロンの利用などを検討し、酵素活性測定に十分量の可溶性タンパク質を得る。大腸菌以外の宿主微生物での発現検討も視野に入れておく。次に、このタンパク質をテルペン合成酵素の基質候補とin vitroで反応させ、その反応産物をGC/MSやLC/MS等で分析を行い、次いで反応産物を精製してNMRなどで化学構造を決定する。さらには、このバクテリアを様々な培地で培養することで、当該テルペンが実際に生産されるかを検討する。
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Causes of Carryover |
担当学生が休学してしまったことが一番の原因であるが、今年度には復帰することを確認できているため、計画通りに進めることができ、予定通り使用できる。
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