2021 Fiscal Year Research-status Report
ジャガイモ塊茎における分裂組織の成長制御メカニズムの解明
Project/Area Number |
21K19102
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
志村 華子 北海道大学, 農学研究院, 講師 (20507230)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤野 介延 北海道大学, 農学研究院, 教授 (80229020)
|
Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2023-03-31
|
Keywords | ジャガイモ / 二次成長 / ウイロイド |
Outline of Annual Research Achievements |
二次肥大や二次成長などによって形が奇形になることはジャガイモ塊茎の品質を著しく低下させる。地上部で生じるとされる塊茎形成誘導シグナルが地下茎先端の分裂組織へ移動し、分裂組織の周辺組織が肥大して塊茎ができるといわれているが、このような劇的な形態変化の制御、塊茎の休眠や萌芽に関わる分子メカニズムはまだ不明な点が多い。本研究では塊茎発達や休眠の制御に関わる分子メカニズムを解明することを目的とし、マイクロチューバーを用いた培養系やジャガイモ塊茎に休眠不良を起こすウイロイドを用いた研究を進めている。今年度はジャガイモ培養物を用いてマイクロチューバーを誘導し、さらにマイクロチューバーの休眠を打破して二次成長や二次肥大を起こす条件の検討を行ったところ、マイクロチューバーで効率的に二次肥大を再現することができた。また、塊茎の休眠や萌芽に及ぼす遺伝子発現について網羅的に調べるために、RNAseq解析を行うことにした。材料の準備のため、ジベレリンやサイトカイニンの有無、マイクロチューバ基部組織の有無など条件の異なる培養物を大量に育成し、各試験区の萌芽直前の組織からRNA抽出を進めた。塊茎はデンプンが豊富であるため、一般的に純度の高いRNAを抽出するのが困難である。そこでRNA抽出方法の検討も進め、いくつかの条件検討の結果、品質の良いRNAを精製することができた。試験区の反復も加えて40サンプル程度を用意してRNAseqに供試し、得られたデータの解析を進めている。また、ウイロイド感染による奇形塊茎をマイクロチューバーで再現するために、ジャガイモ培養シュートへ無菌的にウイロイドを接種することを試みた。今後感染確認を行うとともに塊茎誘導条件で変化がみられるかを調査する。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度はRNAseq解析を行うために多くのジャガイモ培養物からRNA抽出を行う必要があったが、塊茎部分を多く含む組織からのRNA抽出は困難であった。多糖類を多く含む植物組織を用いたRNA抽出に関する文献などを参考にして抽出方法を改良し、最終的には純度の高いRNAを得ることができた。RNAseq解析の成功にはRNAの品質が大きく影響するとされるが、シークエンス後に取得した配列は今後のデータ解析に問題ないほどよい状態で得ることができていた。サンプル数が多く、比較する組み合わせが多いためにデータ解析に時間を要しているが、順調に解析は進んでおり、発現量解析を行うところまで来ている。また、ジャガイモ培養物でウイロイド感染を確立した例はこれまでになく、接種条件からの検討が必要と考えられた。今回用いた接種方法では植物体が枯死するほどの病徴はでてないが、葉の奇形などはみられていることから感染が成立している可能性がある。感染が確認されれば塊茎誘導に進める予定である。これらの成果を踏まえ、研究の進捗はおおむね順調と判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
現在進めているRNAseqデータの解析を続け、塊茎(マイクロチューバー)の萌芽や二次成長に関わる遺伝子発現変動や植物ホルモンの影響を明らかにする。また、塊茎基部にある腋芽分裂組織が頂芽の休眠や伸長に影響することが予想されているが、どのような植物ホルモンや遺伝子発現が関わるかは分かっていない。塊茎基部組織の有無が異なる試験区も用意したことから、塊茎基部がもつ頂芽の成長への影響の実体を明らかにすることも検討する。また、ウイロイド感染によって塊茎に奇形が生じるが、この症状の発生はジャガイモ品種によって異なるとされる。ジャガイモの複数品種を温室内で栽培してウイロイド接種株を作成し、奇形塊茎を誘導できる品種を特定する。また感染確認できたものについては、温度や日長などを変化させて育成することでウイロイド感染による奇形誘導に関わる環境要因を明らかにする。培養物を用いたウイロイド感染系については、引き続き培養シュートへの接種方法について検討する。マイクロチューバーでウイロイド感染や奇形塊茎誘導を再現できた際は、塊茎形成に関わる遺伝子変異体を用いるなど逆遺伝学アプローチも加えて、塊茎発達や休眠の制御に関わる分子メカニズムを明らかにすることを検討する。
|
Causes of Carryover |
今後もRNAseq解析を行う予定であるが、供試するサンプル数はこれまでのRNAseq解析の結果をみて判断するため、当初予定していた解析費用では不足となる可能性をふまえ、今年度予算から次年度に使う分として確保することにした。また、実験に用いるジャガイモ培養物が増えてきており、それらの維持費用がこれまでによりかかることが予想される。次年度予算ではこれらの維持にかかる支出も計画している。
|