2021 Fiscal Year Research-status Report
中心体複製チェックポイントの人工合成による安定一倍体細胞の樹立
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21K19244
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
上原 亮太 北海道大学, 先端生命科学研究院, 准教授 (20580020)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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Keywords | 中心体 / 倍数性 / 細胞分裂 / 人工遺伝子回路 |
Outline of Annual Research Achievements |
ゲノムを1セットのみもつ一倍体哺乳類細胞は、(ゲノムを2セットもつ通常の二倍体細胞に比べ)ゲノム編集による細胞機能改変を大幅に効率化する重要な遺伝学・細胞工学ツールである。しかし、一倍体哺乳類細胞は一般に著しいゲノム不安定性を呈し、短期間で二倍体化してしまう性質をもち、これが一倍体細胞技術の汎用性の妨げとなっている。我々は最近、哺乳類体細胞における一倍体状態が、細胞分裂期の染色体分配を司る中心体の複製反応の慢性的な遅延を引き起こし、中心体喪失による細胞分裂障害によってゲノム不安定性を引き起こすことを明らかにした。そこで本研究では、中心体複製の進行をモニターし、その遅延に応じて細胞周期の進行を一旦停止できる新規のチェックポイント機構を人工遺伝子合成技術により作出する。この人工遺伝子回路を一倍体細胞に組み込むことで中心体喪失、ひいては一倍体細胞特有のゲノム不安定性を解消することを目的としている。 2021年度は、中心体複製の開始(母中心小体からの娘中心小体の合成の開始)を検知して、人工のシグナル伝達回路をon/off制御可能にする人工センサー遺伝子群をコードするプラスミドをデザイン・作成した。現在、これらのプラスミドを安定発現する細胞株の取得に着手しており、随時細胞内機能を評価する段階に入った。 また、相補的アプローチとして、中心体喪失時に双極性紡錘体形成を制御する中心体非依存的な紡錘体形成経路の遺伝子制御系を人工的に補強することで、一倍体のゲノム安定性を改善する試みにも着手した。これまでに、紡錘体極への細胞分裂制御関連因子の集積を司る複数の遺伝子の発現補強とノックアウトを組み合わせることで、一倍体細胞の分裂不安定性が劇的に改善し、一ヶ月強の長期培養においても一倍体状態を保持する細胞株の取得に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
人工センサー遺伝子プラスミドの作出については、参加学生のトレーニングも兼ねて進めたことから当初進展に想定以上の時間を要するフェーズもあったが、概ね年度内の達成目標を実現した。一方、新型コロナウィルス感染拡大防止措置に関連する活動制限の影響により、人工合成遺伝子の細胞内機能評価については、一部年度内計画が未実施の状態に留まった。しかし、これらについてすでに着手しており、2022年度早期に結果を得る見込みがついている。また上述のように、中心体非依存的な紡錘体制御経路の人工改変の試みについて、想定以上の成果を得、極めて安定性の高い一倍体細胞株の取得に成功した。これらを総合し、上記の自己評価とした。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、作出した人工遺伝子の細胞内機能の評価を行い、適宜使用遺伝子ドメインの変更や遺伝子断片長の最適化などを実施し、センサー回路の改良を進める。並行して、細胞周期のon/off制御を司る人工遺伝子回路の作成に着手し、それぞれの回路を単独で機能評価、最適化した上で、両者を一つの細胞に組み合わせた際の動作の評価に移行する。人工遺伝子回路を組み込んだ細胞の中心体数制御、細胞分裂制御、および長期ゲノム構成の安定性をそれぞれ評価する。 また、2021年度の研究で著しい一倍体安定化作用が認められた中心体非依存性経路の人工改変系については、細胞分裂制御の動態に関する詳細な解析を行い、このような作用が引き起こされた原理を明らかにする。 上記の2アプローチを組み合わせることで、最終的に中心体制御および細胞分裂制御に欠陥の生じない一倍体細胞株を作出する。
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Causes of Carryover |
2021年度下半期における新型コロナウィルス蔓延防止に付随した活動制限によって、とくに共用顕微鏡の使用を必要とする細胞実験の一部計画を一過的に見送る措置を取った。これにより、予算執行全般の後ろ倒しが生じたため、当該分予算額が未使用となった。すでに、これらの当該実験計画についての実施目処がたっており、2022年度の細胞イメージング解析にかかる費用として当該予算額を充てる計画である。
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Research Products
(4 results)