2021 Fiscal Year Research-status Report
Neuro recovery and control for decision making
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21K19430
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
佐々木 亮 京都大学, 医学研究科, 助教 (70817931)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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Keywords | 意思決定 / マカクサル / オプトジェネティクス / 腹側被蓋野 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ヒトの精神神経疾患の症候として顕著な過度のリスク嗜好(例:ギャンブル依存症)といった「意思決定」の障害の神経機構解明から、その回復を目指す治療標的を見出すことを将来展望としている。そこで、脳神経回路に直接アプローチ可能でヒトに類似した脳回路基盤を有するマカクサルを対象とし、光遺伝学的手法による神経路選択的な操作を用いた神経回路レベルでの長期介入から、治療戦略モデルの提唱することが本研究の目的である。 これまで、腹側被蓋野(VTA)から前頭前野、とりわけ腹側前頭前野(vlPFC)への直接経路の一過性活性化により、ハイリスクハイリターン(HH)嗜好性が高まる部位とローリスクローリターン(LL)嗜好性が高まる部位を申請者の研究から明示してきた。この知見を踏まえ、2021年度は、サルがどちらの光点に眼球のサッケード運動をするかによってHH嗜好性かLL嗜好性かのいずれを選択するかを調べた(HH-LL課題)。これにより、リスク嗜好性を定量化し、LED+ECoGアレイ(脳表光刺激用赤色)を用いて、課題中の特定のタイミングで両側vlPFCを赤色光で刺激し、HH-LLの意思決定に対する影響を検討した。手がかり刺激の提示から500msの意思決定期間中に10Hz(20msON-80msOFF)の刺激を加えた(3サイクル)試行と加えなかった試行をランダムに行ったところ、刺激を加えなかった試行に比べて刺激をした試行においてよりHH選択傾向が確認された。さらに、外側前頭葉表面に広汎に留置したECoG電極によってHH-LL課題遂行中の皮質脳波電位を記録、解析したところ、広い範囲でHH選択とLL選択の間で異なる振幅の活動が見いだされた。中でもvlPFCにおいて、手がかり刺激提示後、0.2-0.3s後付近のサッケード開始前の「意思決定に関わる期間」において、α波帯域において、HH選択の方がLL選択より高い活動が見いだされた。さらに、刺激の効果は実験日を超えて蓄積する傾向が観察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画の通り、概ね順調に進展しているといえる。予備実験の結果を踏まえて2頭目のサルに対する実験を行った2021年度は、「研究実績の概要」に記載したとおり、手がかり刺激提示後の「意思決定に関わる期間」においてHH選択-LL選択間における違いを発見した。さらに刺激の効果が実験日を超えて、すなわち長期的に維持・蓄積される傾向も観察している。サルに上述したようなレベルの高度な認知課題を課し、光遺伝学的手法によって回路選択的操作の効果をロバストに観察できた前例はなく、進捗は順調といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
VTAからvlPFC経路の繰り返し刺激がリスク依存的意思決定様式について「効果が蓄積する傾向」を有することが明らかとなった。このことは、依存症の形成過程を考えた場合に興味深い。HH選択傾向の発現に関わる部位が腹側前頭前野に存在し、それらは期待値に関わるシステムとは別であるという、リスク依存的意思決定回路の基本構造の存在を示唆しているといえる。今後は、LL選択の傾向発現に関わる部位にアプローチする。これまでの申請者の研究から発見されている背側前頭前野の一過性活性化によるLL選択傾向への変容の詳細を検討する。具体的には、サルVTA-dlPFC 経路の選択的一過性活性化が実験日を超えて蓄積されるのかを検討し、LL選択傾向の意思決定様式についての形成過程を示す脳内機構の解明を試みる。LL傾向への学習効果を誘導することが可能となれば、ギャンブル依存症などに見られる過度のリスク嗜好性緩和のための治療戦略モデルの開発につなげられるはずである。
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