2023 Fiscal Year Research-status Report
がん細胞のコミュニケーションツールを理解した転移予防戦略の創出
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21K19671
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
遠藤 整 東海大学, 医学部, 准教授 (10550551)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大和田 賢 東海大学, 医学部, 講師 (40756409)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2025-03-31
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Keywords | がん転移 / 酸化ストレス応答 / がん幹細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
がんによる死亡原因の90%程度に転移が伴っていると推測され、死亡率の低下を目指す上に置いて、転移を制御している分子メカニズムの解明は喫緊の課題の一つである。本研究では、がんの進展過程においてがん細胞自身が必ず経験する環境ストレス「低酸素、低栄養、足場喪失」といった要因が、がん細胞の性質の変容を引き起こすことや転移促進に関与することの証明にチャレンジするものである。 本年度は、非接着環境下で認められるがん細胞の表現型に焦点を当て、特に酸化ストレスへの適応、薬剤耐性の獲得、スフェロイドの形成を説明しうる分子メカニズムの検討を行った。 用いた全てのがん細胞は、非接着培養条件により様々な形のスフェロイドを形成し、5FUなどの抗がん剤に対し著しく抵抗性を示したことから、抗がん剤への薬剤感受性は低下することが分かった。昨年度実施した脾臓移植による転移能の亢進を検討したin vivoの結果より、非接着条件下においてがん幹細胞マーカーの発現変動が推測されたため、CD13, CD133, EpCAMを代表とする肝臓がんのがん幹細胞マーカーの発現について検討した。その結果、これまでの先行研究とは異なる、非接着条件下でのみ認められるがん幹細胞マーカーの特異的な発現変化が分かった。その条件下での細胞特性をより明確にするため、4つの肝がん細胞株を用いて、非接着条件でのみ変動する遺伝子発現を網羅的に検討した。発現が上昇した共通の遺伝子数は8つ、発現が低下した共通の遺伝子数は21個であり、共通遺伝子は予想を超えて絞り込むことが出来た。発現が上昇した遺伝子のうち機能不明の遺伝子を除くと、全てが酸化ストレス応答に関わる遺伝子であった。ある転写因子のノックダウンによる検討から、非接着条件下で機能するであろう最も重要な遺伝子を特定することが出来た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに知られていたがん幹細胞マーカーの発現とは全く異なる発現パターンについて有用な情報を取得することが出来た。これまでは、同じ臓器由来のがんであったとしても、がん幹細胞マーカーの発現には一貫性はあまりなく、がん細胞の生存環境に着目した報告はほとんど無かった。本研究では、転移に向かう環境の一部を再現した非接着条件でのみ認められる共通のがん幹細胞マーカーに迫ることが出来たため、転移のがん細胞特性をさらに理解する上で重要な知見の1つを見出すことが出来たと考えられる。さらに、複数の細胞における共通性を見出すための実験を積み重ねたことから、普遍性の高い結果を得ることが出来た。昨年度に引き続き、転移モデルの確立やがん幹細胞マーカーに焦点を当て、酸化ストレス応答が転移を支える共通メカニズムであることを解明できたため、順調に研究を遂行できたものと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
酸化ストレス応答ががん細胞が転移を成立させるための必要条件であることが示唆されたものの、十分な分子メカニズムに迫ることが出来たとはいえなかった。そのため、遺伝子の強制発現やノックダウン又はノックアウトなどの実験を積み重ねることが必要になってくる。がんの特徴の一つである転移は、由来臓器に依存しない共通の表現型である。それゆえ、異なる細胞腫を用いたとしても、転移を支えるメカニズムには共通点があるものと推測している。本研究で用いた細胞のみならず、異なる癌腫を用いることで、本研究で得られた知見がどの程度当てはめることが出来るかなど、幅広い視点で検討を重ねていく必要があると考えている。
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Causes of Carryover |
酸化ストレス応答ががん細胞における転移を成立させるための必要条件であることが示唆されたものの、分子メカニズムを追うために必要となる遺伝子の強制発現やノックダウン又はノックアウトなどの実験に至ることは出来なかった。その理由は、目的の遺伝子導入に関わる基礎検討に時間を要したためである。着手できていない遺伝子導入実験や、転移機能の評価を行うための動物実験などに活用し、確実な研究成果を得たいと考えている。
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