2021 Fiscal Year Research-status Report
オレキシンが奏でる中枢性代謝統合による非アルコール性脂肪肝炎と肝癌の撲滅
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21K19704
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
恒枝 宏史 富山大学, 学術研究部薬学・和漢系, 准教授 (20332661)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
笹岡 利安 富山大学, 学術研究部薬学・和漢系, 教授 (00272906)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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Keywords | 非アルコール性脂肪肝炎 / 肝細胞癌 / 肥満 / 視床下部 / オレキシン |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、肥満に伴う非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)が世界的に蔓延している。脂肪肝は一定の割合で重篤な非アルコール性脂肪肝炎(NASH)へ進展し、致死率の高い肝細胞癌(HCC)を発症する。しかしNASHが重症化や癌化する機序は不明であり、治療薬は存在しない。この現状を克服するためには、創薬研究に有用なヒトNASH病態を反映するモデル動物の確立が急務である。NASHの主な原因として「過食」に加え、現代人特有の「体を動かさない生活様式」や「自律神経バランスの乱れ」の悪影響が重要視されている。視床下部に発現するオレキシンは自発運動量の増加と自律神経バランスの調節に不可欠な神経ペプチドである。そこで本年度は、高脂肪食負荷したオレキシン欠損マウスの代謝表現型を野生型マウスと比較解析した。その結果、高脂肪食を短期間(4-9週間)負荷することでオレキシン欠損マウスは過度の肥満とインスリン抵抗性を呈し、肝臓では脂肪合成、小胞体ストレス、および慢性炎症マーカーの遺伝子発現が増加した。摂食量やエネルギー消費量は不変であり、自発運動量の低下が高脂肪食負荷オレキシン欠損マウスの肥満の主因であった。高脂肪食を16-24週間負荷すると、オレキシン欠損マウスの肝臓では顕著な脂肪蓄積や線維化を伴うNASHが誘発された。さらに長期の高脂肪食負荷により、オレキシン欠損マウスの肝臓においてのみ高度の肝線維化を伴うHCCが発症した。したがって、オレキシンの中枢作用はNASHやHCCの防御に必須の因子であることが示された。本研究成果より、高脂肪食負荷オレキシン欠損マウスは運動不足と自律神経バランスの乱れ、すなわち、現代人の生活習慣を背景とする新しいNASH/肝細胞癌モデルとして活用可能であることを実証した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和3年度科学研究費・挑戦的研究(萌芽) 研究計画調書に記載した通り、本年度は新規 NASH/肝細胞癌モデル動物として高脂肪食負荷オレキシン欠損マウスの有用性を実証し、自発運動量の低下と自律神経系の破綻を介したNASH/肝細胞癌の進展機序を明らかにした。このように、本年度の研究において、視床下部オレキシン系を標的とすることで肥満に伴うNASH/肝細胞癌の発症を効果的に予防・治療できる可能性がさらに高まったことから、令和4年度も引き続き、「オレキシン欠損マウスを活用した NASH/肝細胞癌の進展機序の解明」や「オレキシンを標的とした NASH/肝細胞癌の新規治療法の創出」のための研究を計画通り実施することが可能な状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度科学研究費・挑戦的研究(萌芽) 研究計画調書に記載した通り、本研究の第2ステップとして、高脂肪食負荷オレキシン欠損マウスにおけるホルモン系や免疫系の破綻を介したNASH/肝細胞癌の進展機序を検証する。そのために、1)ホルモン系として女性ホルモン(特にエストロゲン)に着目し、卵巣摘出オレキシン欠損マウスを用いてエストロゲンとオレキシンの両作用の消失がNASH誘発に及ぼす影響を解析する。2)免疫系の破綻の関与は、オレキシン欠損マウスの肝臓と脂肪組織のマクロファージ極性の変化を解析する。これらの検討により、単純性脂肪肝→NASH→肝細胞癌に至る重篤化の過程を解明する。さらに、本研究の第3ステップとして、高脂肪食負荷オレキシン欠損マウスに対する代謝改善薬とオレキシンの相乗効果を解析し、効果的なNASH/肝細胞癌の治療法を探究する。このように補助事業の最終年度(令和4年度)において一定の結論が得られ、その成果を公表できるよう配慮しつつ、研究を推進する。
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