2022 Fiscal Year Research-status Report
Paradigm shift in mutation research brought by next generation sequencing: from specific locus test to whole genome analysis
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21K19842
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
松本 義久 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 教授 (20302672)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
権藤 洋一 東海大学, 医学部, 客員教授 (40225678)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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Keywords | 変異 / 放射線 / ゲノム / 次世代シーケンサ |
Outline of Annual Research Achievements |
自然変異、放射線誘発変異の定量的研究は長年、外見や薬剤耐性などの表現型の変化を与える遺伝子に注目した特定座位(SLT)法によって行われてきた。近年、次世代シーケンシングを用いた全ゲノム解読(WGS)法を用いた変異研究が主に個体レベルで広がりつつある。WGS法はSLT法に比べて4桁から5桁感度が高いことが示されているが、単純に培養細胞系に適用することはできない。本研究は、WGS法を培養細胞でも変異解析に適用できる方法を開発し、全ゲノムを視野に、また、表現型の変化に依存せず、ゲノム配列の変化を捉える次世代変異研究を開拓することを目的としている。 2年目となる2022年度は、WGS法による新たな実験系の確立とこれを用いた変異解析を実施した。材料としては、長年SLT法による変異研究に使用されてきたヒトリンパ球由来TK6野生型細胞を選択した。まず、非照射および放射線照射細胞クローンを取得した。このクローンからゲノムDNAを抽出し、Illuminaプラットフォームを用いて、150bpのペアエンドで、のべ90Gbp(30Xカバレッジ)以上の塩基配列解析を行った。基準ヒトゲノムhg38を参照配列として、約380万の単塩基置換(SNP)、約90万の小規模挿入・欠失(Small Indel)、約8,600の構造変異(SV)がコールされた。初期コールのほとんどは個人間のゲノムの差異に相当すると考えられる。TK6に元々存在するhg38との違いを差し引き、さらに数段階のフィルタリングを適用することにより、各クローンでの新規変異候補として、約300のSNP、約2,500のSmall Indel、約2,700のSVを得ることができた。非照射細胞クローンと放射線(1 Gy)照射細胞クローンの間で、これらの新規変異候補数に違いはなく、SNPの内訳ではCからTおよびTからCへの置換が最も多い傾向が認められた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の2021年度には、鍵となる単一細胞由来クローンの取得効率が極めて低いという問題に直面し、予定していたWGS解析までには至らなかった。2年目の2022年度における第一の進展は、単一細胞由来クローンの取得法が確立し、クローンごとの全ゲノム解析データを得ることができたことである。第二の進展は、得られた初期コールから新規変異候補を絞り込む過程、すなわち、数段階のフィルターを繋げたパイプラインが確立したことである。これにより、本研究の目的であるWGS法を適用した培養細胞系での変異解析法の基礎は確立できたと考えている。 SNP、Small Indel、SVの数、SNPのスペクトルまで解析した段階では、放射線(1 Gy)照射細胞と非照射細胞の違いは見られていない。SNPは複製エラー、酸化などの影響が大きいと考えられる。一方、放射線によるDNA二重鎖切断は、修復エラーを介してSmall IndelやSVを生じると考えられる。現在、Small Indelについて、同一塩基が続く配列や繰り返し配列の有無などで分類し、解析を行っている。SVについては、切断・結合部位におけるマイクロホモロジーの有無などに注目し、解析を進めている。 また、2年目においては、CRISPR/Cas9系を用いたゲノム編集により、ヒト骨肉腫U2OS細胞から2種のDNA修復遺伝子欠損細胞を作製することができた。今後、これらの細胞を用いて、遺伝子欠損細胞と正常細胞間での自然および放射線誘発新規変異の比較検討を行うことを考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の通り、本研究の目的としていたWGSを用いた培養細胞での変異解析の新しい方法の基礎は確立できたと考えている。放射線誘発新規変異の検出のためには、特にSmall IndelとSVのより詳細な分類と解析が重要と考えられる。Small Indelについては、同一塩基が続く配列や繰り返し配列の有無や長さ、SVについては切断・結合部位におけるマイクロホモロジーの有無や長さなどによって分類することで、放射線誘発新規変異を抽出できる可能性がある。現在、この分類手法の確立を試みている。 また、2023年度は国内、国際学会での発表とともに、国際誌への論文投稿を行いたいと考えている。
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Causes of Carryover |
当初計画では、2年目(2022年度)には、放射線高感受性のDNA修復遺伝子欠損細胞を用いて、WGS法による自然変異、放射線誘発変異の解析を予定していた。しかしながら、DNA修復遺伝子欠損細胞作製(複数の細胞を用い、複数の遺伝子の欠損細胞の作製を試みていた)と変異データ解析のパイプライン確立を待って、解析に進むことが妥当と判断した。2023年度には4~6サンプルの解析を予定している。また、国内、国際学会での発表とともに、国際誌への論文投稿を計画している。
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