2021 Fiscal Year Research-status Report
光学-分子動力学計算融合による細胞膜損傷の分子レベルでの理解と定量化技術の開発
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21K19903
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Research Institution | Nagoya Institute of Technology |
Principal Investigator |
中村 匡徳 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20448046)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
杉田 修啓 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20532104)
重松 大輝 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (50775765)
氏原 嘉洋 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80610021)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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Keywords | SHG / 細胞膜損傷 / 分子動力学 |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞膜は,細胞内外を隔てる境界であり,細胞にとって必要不可欠な構造である.膜の主成分である脂質二重膜は,脂質分子が対を成す反転対称構造であるが,片層のみに色素を挿入すると,非反転対称構造となる.これに光を与えると,構造の非反転対称性に起因して第二高調波発生(SHG)光が発生する.これまでに申請者らは,SHG専用色素Ap3を挿入したリポソームに電気穿孔法で損傷を与えると,SHG光輝度値が低下することを確認し,これは膜損傷によりAp3含有膜の非反転対称構造が解消されたことに起因するとの仮説を立てた.この実験事実はSHG光により損傷度を定量化できる可能性を示しているが,仮説の真否は不明である.そこで本研究では,分子動力学計算により前記仮説の検証を行うとともに,SHG光観察系によりリポソームの膜損傷を定量化することに挑戦する. 2021年度は,まず,これまでに得られた知見の再現性を確認するために,リポソームにAP3を導入し,電気刺激を与えることで,SHG光の変化を調べた.結果として,与えた電気刺激の周波数の増加とともに,SHGは低下するが,周波数をさらに上げるとSHGは低下せず,変化しないということが明らかとなった.この実験データの一部解釈を目的として,分子動力学計算を行った.膜の片側にAp3を導入した細胞膜の分子モデルを構築し,膜に垂直な方向に電場を印加した.一定以下の強さの電場下では,膜構造に変化は起こず,Ap3分子の移動は起こらなかった.しかし,一定以上の電場を印加すると膜を貫通する水分子のトンネル(孔)が形成された.この孔を介して,Ap3分子が下層へ移動し,Ap3分子は上下の層にほぼ同数分布して,膜の非反転対称構造を解消されることがわかった.以上より,細胞膜に損傷を与えるとSHG光がなぜ低下するのかが明らかとなった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
リポソームにAP3を導入し、電気刺激を与えることで、SHG光が低下していく様子を実験的に再確認できた。しかし、年度の途中でSHG光を見るための顕微鏡(レーザー)が故障してしまったため、実験については予定した計画よりも少し遅れている。故障した顕微鏡については2022年度半ばには修理が完了する予定であり、実験再開に向けて準備を進めているところである。一方で、分子動力学計算については順調に進行した。リン脂質二重層の分子モデルは完成し、AP3の分子モデルの導入もできた。これにより、Ap3分子を含有する脂質二重膜の分子モデルが構築できた.これに対して、電場を印加したシミュレーションもできた。これにより、膜構造の変化に伴うAp3分子の拡散現象も確認できた。以上より、実験には多少遅れがあるものの、その分、分子動力学計算は順調であるため、(2)おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度のテーマは,力学負荷による膜損傷の定量化基盤技術の確立である.リポソームを用いて,力学負荷によって膜を損傷させるとともに,SHG光を計測するための基盤実験形を構築する.蛍光物質を封入したリポソームに対し,マイクロピペット吸引や浸透圧,マイクロ流体デバイスによって様々な大きさと様式の力学負荷を与え,SHG光輝度値(膜損傷)と蛍光輝度値(孔形成による蛍光物質の漏出)変化を同時計測する.また,分子動力学計算では実験データの解釈を進める.2021年度行った実験では,印加電圧の周波数を増加させると,SHG光が低下しないという結果になった.その原因は現在不明であり,この解釈に分子動力学計算を用いたい.また,定量的な解析も途中であるので,それを進めるともに,現実的な計算時間で実験現象を再現できるよう粗視化モデルの開発も進める.
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Causes of Carryover |
2021年度に実験を予定していたが、SHG光観察用の顕微鏡(レーザー部)が壊れてしまった。修理には1000万円ほど必要であり、昨年度は修理できなかった。その後、いろいろ検討したが、買い換えることとなった(発注済)。そのため、実験が年度途中でできなくなってしまったため、予算を次年度に残すことになった。
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Research Products
(2 results)