2023 Fiscal Year Research-status Report
先端科学技術を対象とする熟議民主主義的な意思決定手法の倫理学的検討
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21K19947
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
小林 知恵 横浜国立大学, 総合学術高等研究院, 特任教員(助教) (00907941)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2025-03-31
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Keywords | 科学技術倫理 / 熟議民主主義 / ELSI / RRI |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、先端科学技術をめぐる熟議民主主義的な意思決定手法の開発に向けた倫理学研究として、熟議の場を設計する際の基盤となる価値論と望ましい熟議が満たすべき要件の解明を目的とする。 本年度の研究として、(1)昨年度中に行った口頭研究発表の論文化と(2)熟議の場において解消されるべき考慮の不平等の解明に向けたサーヴェイを実施した。(1)については、先端科学技術のELSIをめぐる熟議・協働において、倫理学者に期待される役割を検討した。具体的には、道徳的証言に関する諸研究を参照しながら、専門的知識の提供を中心とする役割理解の問題点を指摘し、協働実践の場の設計や条件付きでの知見提供といった役割の意義を明らかにした。この成果は『モラリア』第30号(東北大学倫理学研究会)に特集論文として掲載済みである。(2)については、J・S・フィシュキンが熟議の評価指標の一つとして挙げる「考慮の不平等」が、M・フリッカーが提唱した「証言的不正義(testimonial injustice)」と重なりを有するという見通しのもと、(2-a)証言的不正義の不正さを説明する諸理論の検討と(2-b)本課題が想定する文脈における是正策の検討を行った。(2-a)に関して、本年度は口頭発表と原稿化作業を終え、2024年度中に書籍(共著)として成果発信する予定である。(2-b)については、引き続き口頭発表等を通じてフィードバックを受け、2024年度中の論文化を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究代表者が育児休業を取得したため研究の進捗に遅れが生じている。本年度中に終了予定だった考慮の不平等に関する理論研究および応用研究は、研究期間を延長して2024年度も継続して実施する。
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Strategy for Future Research Activity |
熟議の場において解消されるべき「考慮の不平等」について、主にM・フリッカーの「認識的不正義」(M. Fricker [2007] Epistemic Justice)をめぐる議論を参照することでその理論的基礎づけとその解消に向けて達成すべき要件の明確化を行う。さらにこの作業によって得られた知見自体を、熟議の参加者を含む関係者に共有されるべき情報の一部として位置付け、熟議の場を設計する際の議論にどのような配慮を呼び込むのか検討する。
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Causes of Carryover |
研究代表者の育休休業取得に伴い、交付申請時に予定していた調査および論文投稿を実施できなかったため次年度使用額が発生している。実施時期を延期して 2024年度中に執行する。
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