2022 Fiscal Year Annual Research Report
中途障害者となった作家の創作実態に関する研究―口述筆記という介助行為に着目して
Project/Area Number |
21K20203
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Research Institution | International Research Center for Japanese Studies |
Principal Investigator |
田村 美由紀 国際日本文化研究センター, 研究部, 機関研究員 (60907054)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | 口述筆記 / 中途障害 / ケア / ジェンダー / 身体 / 上林暁 / 三浦綾子 / 大庭みな子 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、まず大庭みな子と大庭利雄の事例分析に取り組んだ。口述筆記によって創作された『楽しみの日々』(1999年)、『雲を追い』(2001年)、『風紋』(2007年)などの作品を、筆記者である大庭利雄の介護日誌や回想記の記述とも照応させつつ検討し、両者が口述筆記を介してどのようなケア関係を構築していたのか分析をおこなった。また2023年9月には、北海道・旭川の三浦綾子記念文学館にて資料調査を実施した。学芸員の長友あゆみ氏と面会し、三浦綾子と三浦光世の口述筆記創作に関する情報をご提供いただくとともに、一般には公開されていない光世の代筆原稿の閲覧と撮影をおこなった。 そのほか「書き写す」という行為と「書く」という行為との位置づけを探るために、多和田葉子のテクストを対象に分析をおこない、2022年11月、『日本近代文学』に論文「創造性から逃れる―多和田葉子「無精卵」における書くことのクィアネス」を発表した。また、同論文の内容をさらに発展させ、2023年3月にボストンで開催されたAssociation for Asian Studies Annual Conferenceにおいて、“Writing on the Body, Writing with the Body”と題したパネル発表をおこなった。同月には、武田泰淳と武田百合子の口述筆記創作の実態を考察した論文「他者とともに書くこと―武田泰淳と武田百合子の口述筆記創作をめぐって」を『日本研究』に発表した。 研究期間全体を通じて実施した上林暁・三浦綾子・大庭みな子の口述筆記創作の分析については、その成果を2023年に刊行予定の単著に書き下ろし、筆記者のジェンダーに応じた評価の差異や、協働的な書く行為に伴う種々のジレンマを明らかにした。また、文学研究と障害学やケア論の知見を接続させる可能性についてもその見通しを示した。
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Research Products
(6 results)