2021 Fiscal Year Research-status Report
熱帯熱マラリア原虫のアフリカ型アルテミシニン耐性機序解明
Project/Area Number |
21K20765
|
Research Institution | Juntendo University |
Principal Investigator |
福田 直到 順天堂大学, 医学部, 助教 (10913048)
|
Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
|
Keywords | 薬剤耐性 / 熱帯熱マラリア / アルテミシニン / Kelch13 / アフリカ |
Outline of Annual Research Achievements |
ウガンダ共和国で見つかった新たなアルテミシニン耐性熱帯熱マラリア原虫の性質をさらに詳細に解明するため、耐性の原因と考えられたKelch13 A675VおよびC469Y変異の表現型を培養系で検討した。本研究では当初、ゲノム編集によって同変異を原虫標準株に導入して耐性を証明することを目標にしていたが、代表者らが臨床的アルテミシニン耐性について報告した論文(Balikagala, Fukuda, et al. N Engl J Med. 2021)に対するレターとして、他のグループが発表した(Stokes et al. N Engl J Med. 2021)。しかしその耐性度は弱く、強力な耐性を獲得するには別の因子が必要であることが示唆された(Mita, Fukuda, Balikagala. N Engl J Med. 2021)。 そこで我々はウガンダ由来のKelch13変異株の中でも、臨床的耐性の特に強いものが存在することに注目した。ゲノム解析の結果、ある別の変異がKelch13 A675V変異と共存すると臨床的耐性度が増すことが明らかになった。この成果はさらに症例数を増やして詳細に検討し、原著論文として発表する予定である。これに関連し、今年度新たな海外サンプリングを行った。 また、この新たな変異がKelch13 A675V変異によるアルテミシニン耐性を増強することを証明ため、ゲノム編集により変異原虫の作出と培養系での表現型解析を現在行っている。 Kelch13 A675VおよびC469Y変異はアフリカ型アルテミシニン耐性株の主要なマーカーであるが、これらは単独で強力な耐性をもたらす変異ではなく、複数の要因が重複することで臨床的に有意な耐性に至ったと考えられる。本研究の成果により、アルテミシニン耐性を決定するさらなる因子が明らかになり、機序の解明と耐性診断の効率化が期待される。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
熱帯熱マラリア原虫のゲノム編集に時間を要し、先行して他のグループから同様の成果が発表された。その成果は代表者らの発表した論文(Balikagala, Fukuda, et al. N Engl J Med. 2021)へのレターとして公表された(Stokes, et al. N Engl J Med. 2021)。しかしその耐性度は弱く、強力な耐性を獲得するには別の因子が必要であることが示唆された(Mita, Fukuda, Balikagala. N Engl J Med. 2021)。 そこで我々は目標を修正し、Kelch13 A675VおよびC469Y変異による耐性を増強する因子の探索を行った。ウガンダ共和国で得られたKelch13変異アルテミシニン耐性株のうち、強力な耐性を示すものとそれ以外を分け、全ゲノムデータを用いてGWASを行った。さらに代表的な耐性関連遺伝子をピックアップしてシークエンシングを行い、全ゲノム解析から抜け落ちた変異を精査した。その結果、ある変異がKelch13 A675V変異によるアルテミシニン耐性を有意に増強することが判明した。 このことを培養系でも証明するため、Kelch13 A675V変異と新たな変異の重複した原虫株の作出を試みている。ゲノム編集に必要なプラスミドの作製はすでに完了しており、今後原虫標準株へのトランスフェクションと表現型解析を行う予定である。 以上のとおり、当初予定していた計画が他のグループから公表されたため大幅な方針変更が必要となったが、その中で想定外の発見があり、よりインパクトの高い研究成果が得られつつある。
|
Strategy for Future Research Activity |
発見された新たなアルテミシニン耐性変異の意義を検討するため、in vivoおよびin vitroの両面でさらなる解析を行う予定である。 in vivoの解析は過去に収集した臨床サンプルを用いて概ね完了しているが、症例数をさらに増やし、現在の状況をフォローアップする目的で2022年3月に新たな海外調査を行った。その中にも変異例が含まれており、これを加えることで解析の精度はさらに向上することが期待される。この成果は今年度末までに代表者を筆頭著者として原著論文を投稿する予定である。 in vitroの解析は当初難航していたゲノム編集系が確立したことによりスピードアップしている。変異原虫のselectionプロトコールを調節することで効率的に変異原虫が得られるようになった。ゲノム編集技術は海外の巨大ラボが先行していたが、昨年度に行った改良によって同等のスピードを実現できるようになった。 新たな耐性変異に対するguide RNA/donor DNAプラスミドはすでに完成しており、今後はこれをCas9とともに原虫にトランスフェクションして変異原虫を作出する。さらにA675Vと新変異の二重変異原虫を作出し、耐性度の上昇を証明する予定である。マラリア原虫のゲノム編集には数か月かかるため、スピードアップを図るため同時に多くの試験を行う予定である。実験スケールアップを図るため、昨年度の本研究費から支出して新たなインキュベーターを導入した。
|
Causes of Carryover |
コロナ禍による物流遅延のため、購入を計画していた試薬が年度内に入手できなかったため。
|
Research Products
(6 results)
-
-
-
-
[Journal Article] Evidence of Artemisinin-Resistant Malaria in Africa2021
Author(s)
Balikagala Betty、Fukuda Naoyuki、Ikeda Mie、Katuro Osbert T.、Tachibana Shin-Ichiro、Yamauchi Masato、Opio Walter、Emoto Sakurako、Anywar Denis A.、Kimura Eisaku、Palacpac Nirianne M.Q.、Odongo-Aginya Emmanuel I.、Ogwang Martin、Horii Toshihiro、Mita Toshihiro
-
Journal Title
New England Journal of Medicine
Volume: 385
Pages: 1163~1171
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
-
-