2022 Fiscal Year Research-status Report
Establishing Memory Studies in Japan: A Cornerstone for Peace
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21KK0032
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
川野 徳幸 広島大学, 平和センター, 教授 (30304463)
片柳 真理 広島大学, 人間社会科学研究科(国), 教授 (80737677)
西川 克之 北海道大学, メディア・コミュニケーション研究院, 教授 (00189268)
山田 義裕 放送大学, 北海道学習センター, 特任教授 (40200761)
大池 真知子 広島大学, ダイバーシティ研究センター, 教授 (90313395)
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Project Period (FY) |
2021-10-07 – 2026-03-31
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Keywords | Memory Studies / Heritage / 記憶 / 戦争 / 平和構築 / トラウマ / 復興 / デジタル |
Outline of Annual Research Achievements |
本国際共同研究は、次の項目を目標としている。 ①Memory Studiesを日本に導入し、科目を設置する。②国内外の戦争・紛争の記憶がメディア、教育、大衆文化、文化遺産、観光などを通じてどう表象され継承されているのか、実態を把握し、③和解学や史学の成果を援用しつつ、実証研究により、分野横断的な理論を導入し、体系化を図る。④その理論体型と実証研究の手法をまとめ、汎用性を研究分担者・研究協力者らの各専門分野で検討し教材を作成し、⑤記憶の多面性と流動性を実証的に考察することで記憶の理解に柔軟性を導き、記憶利用にかかる国際社会の複雑な利害関係を建設的に討議し、記憶紛争における平和的相互受容の活路を見出す知識とスキルとを滋養する。⑥そのために、欧米で培われた記憶学をアジアの実情に即した内容とフォーマットで日本に導入する学術的基盤を構築する。 以上のうち2022年度は、①②③を展開し、成果として論文発表、セミナー、アンケート調査、論文、学会発表を行った。本年度は特に、市民の記憶と記憶伝播の実態調査に注力し、記憶を素材とした二種類の大規模展示会2件と大学生、高校生と被爆体験継承者が協働制作するアート作成や展示会を通じて調査分析を行った。 本年度実績として、代表者と国際共同研究者は、グラスゴー大学の記憶学のコースで特別講義を行い、記憶学導入の際の具体的な利点、必要な環境、課題などを研究した。また、リュブリャナ大学犯罪心理学部で、代表者は「広島の記憶」について講演し、戦争記憶の継承が国際社会の心理変化に関与する事例を考察した。代表者による被爆者の記憶で描いた詳細な鉛筆画と証言の英訳書籍と地図三点を用いて、観光者への記憶伝播の効果を検証し、記憶の場所性・空間性と観光を通じた継承の可能性を分析した。また代表者は所属大学で「国際平和への記憶学(Memory Studies)を試験的に立ち上げている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者と研究分担・協力者は、当初の計画に沿って、以下の12項目を行った。 1.「国際平和への記憶学」講座を試験的に開講し150名履修。2.「Hiroshima Peace Heritage I&II」を継続開講し、Memory StudiesとCritical Heritage Studiesの基礎的概念を導入し教育効果を観察・分析。3.既存の記憶学系理論をアジアの現状を鑑みて、国際的記憶の紛争解決に関する適用可能性と用途別に分類・整理。4.特にデジタル社会における歴史的事象の記憶化と世論変化についての調査・データ収集・整理。5.記憶の「真正性」に関する第一次聞取調査を完了しデータ化に着手。6.トラウマを惹起する記憶と「記憶の環境」の表象研究を基盤とし、被爆者の記憶のみから作成された詳細な鉛筆画の原画展示会を主催し広島市と広島大学の共催で広島平和記念公園被爆建物で開催。「国際平和への記憶学」受講生らが参加。研究班メンバーが研究成果を発表し市民と対話。7.被爆電車とトラウマを惹起する記憶変遷、および国際的記憶伝播の実態研究の成果を基盤に、広島大学学生と国際共同研究班が被爆者と記録映像を作成。8.広島G7サミット開催に向けたシンポジウムで、広島の記憶の国際的位置付けと記憶の伝播・継承の平和構築への関与を議論。9.国際共同研究分担者が、仏国で個展を開催し本研究代表者が研究成果を提供・発表。10.高校生を対象に、分担者と代表者はボディマッピングを介した被爆体験の記憶継承を企画運営。世界初の試みで広大留学生が海外向けの映像記録に参画。11.分担者と代表者は「読売新聞学生平和意識調査」を継続開催。12.代表者は2019ー22年の博士課程学生に副指導教員としてMemory StudiesとCritical Heritage Studiesを指導し同学生が育成助教として採用された。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は、主に記憶学シラバス編成に向けて、国際共同研究者らと現存の記憶学を取り込んだ高等教育における事例調査を継続し、特にアジアの現状に照合して有用と思われる項目を同定する。 記憶学コースで用いるために、戦争・被爆・被災体験の証言の音声・動画記録をデータベース化し、テキスト分析を行い、記憶表現の年代別、地域別、その他社会環境や歴史的出来事による記憶表象の特徴的傾向について検索可能なデータベース構築を行う。 2022年までの成果に基づいて、記憶の表象と真正性の実証研究を深める。特に異なる対象・地域・環境における「記憶の表象とその変化」にテーマを据えた展示を行い、訪問者の共感反応や、関連する記憶の惹起の有無などを調査する。 2023年度は、これまでの成果を踏まえて、新たに6カ国の研究者の協力の意思表示があり、相互訪問、セミナー共同研究調査の準備を進めている。主に、本研究の基盤である現行の多領域横断型の記憶学理論に照合しつつ、アジアの現状に即した視点と事例・実証研究に根ざした理論的考察の枠組みを固めていく。 学部生向けの「国際平和への記憶学」と大学院生向けの「Hiroshima Peace Heritage I & II」に、本研究のこれまでの成果を盛り込んで、本学と国際共同研究相手国の研究分担者・研究協力者、および国内の研究分担者・研究協力者の教育機関において、学生の反応と教育効果を観察、分析し、2025年度の記憶学コース立ち上げに備える。
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Causes of Carryover |
適切な使用を行った結果、研究分担者において32430円の未使用額が生じた。次年度予算と合わせて、同分担者の国際学術論文の翻訳・公正費用に充当する。
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Research Products
(39 results)