2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22221007
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
村山 明宏 北海道大学, 情報科学研究科, 教授 (00333906)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
末岡 和久 北海道大学, 情報科学研究科, 教授 (60250479)
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Project Period (FY) |
2010-05-31 – 2015-03-31
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Keywords | ナノ構造作製 / 量子ドット / ナノ光デバイス / スピンデバイス / ナノ表面・界面 |
Research Abstract |
電子スピン情報の光伝送を目指して、レーザー光発振中に電子スピン状態を維持することが可能な半導体量子ドットを活性領域とする「量子ドットスピンレーザー」を研究する。主な研究目的としては、量子ドットに対して室温動作可能な金属強磁性体ナノ構造による電子スピン電極を作製し、注入時のスピン緩和を十分抑制することが可能な金属磁性体と半導体の原子層制御界面の実現と、超高速の準共鳴電子スピントンネルを利用して、磁性体スピン電極から半導体量子ドットにスピン偏極電子を高効率に注入することである。 平成25年度は前年度に引き続き、半導体量子ドット層と金属強磁性体の原子層制御エピタキシャル成長に関する研究を複合型超高真空エピタキシーシステムにより行った。前年度に得られたショットキーバリアによる電流スピン注入に対して、平成25年度は、InGaAs量子ドットと積層したAlGaAsバリア層表面においてMgO酸化物トンネルバリアとFe強磁性体スピン電極層の単結晶エピタキシャル成長を実現した。そして、この酸化物トンネル注入型電子スピン電極構造を用いた量子ドット発光ダイオード素子を作製し、電流注入発光の円偏光特性より250Kまでの温度領域において電子スピン注入を確認した。また、詳細な注入電流依存性や磁場依存性などの測定により、Fe強磁性スピン電極層内で生成された電子スピン分極の10 %に相当する電子スピンが量子ドットに輸送・注入されていることがわかった。 さらに、半導体量子ドットに対して、トンネル効果を利用した高効率電子スピン注入プロセスの検討を行い、InGaAs量子井戸からなる二次元電子系から次元性の異なるInGaAs量子ドットに対して、GaAsトンネルバリアを介したスピン損失がほとんど認められない10 psの時定数を持つ超高速電子スピントンネル注入を実現した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度は、前年度に実現したFe/AlGaAsショットキーバリアによる電子スピン注入型電極構造を持つ量子ドットスピン発光ダイオード素子の電流スピン注入特性を改善するため、3 nmの膜厚を持つMgO酸化物トンネルバリアを用いたFe強磁性電極層の単結晶エピタキシャル成長を行った。そして、このMgOトンネルバリアを利用したFeスピン電極構造を持つ量子ドットスピン発光ダイオード素子を作製し電流スピン注入を実現した。この場合の電流注入発光における円偏光度から得られた注入スピン分極率は、ショットキーバリアによるスピン注入特性と比較して良好であった。また、活性層として量子ドットの替わりにInGaAs量子井戸を用いた場合にはさらに高い注入スピン分極率が観測されていることから、量子ドットへのスピン注入におけるスピン損失要因として、活性層の量子構造によらないFe/MgO/AlGaAsスピン電極界面におけるスピン緩和と、半導体層への輸送後に量子ドットへと注入される際に生じるスピン緩和の影響を各々定量的に見積もることができた。すなわち、注入時のスピン損失が少ない量子ドットへの高効率電流スピン注入実現に向けた重要な指針が得られた。 また、平成25年度に実現した、二次元電子系から次元性の異なる量子ドットへのスピン損失が非常に少なく高効率かつ10 ps前後の超高速共鳴スピントンネル現象に対して、詳細なトンネルバリア厚依存性の測定と電子波動関数の計算結果との比較を行った。その結果、量子井戸中のポテンシャル揺らぎに起因する二次元電子系波動関数の局在化が、ゼロ次元量子ドット中の波動関数との高い結合を実現する上で重要な役割を果たすことが結論された。すなわち、量子ドットへの超高速スピントンネルに対して有効な物理的描像を明らかにすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
酸化物トンネルバリアの作製については、MgO酸化膜のエピタキシャル成長条件の最適化を行うとともに、Feと格子整合の良い他の酸化物材料の検討を進めていく。そして、作製したFe/酸化膜/AlGaAsトンネルバリア構造界面における原子オーダーの構造解析を進め、電子スピン注入時のスピン損失との関係を明らかにしていく。さらに、スピン電極材料としては、FeやCoFe系強磁性薄膜に加えて、高スピン偏極電子注入が可能と期待されるFe3O4薄膜の利用も検討していく。 そして、様々な酸化物系トンネルバリアやFe系強磁性合金を組み合わせた新しいスピン電極構造を持つスピン注入型量子ドット発光ダイオード素子の作製を迅速に行い、電流発光の円偏光特性の測定より量子ドットへと注入される電子スピン分極率の定量的測定を行うとともに、高いスピン注入効率が得られるスピン電極構造を確立していく。 また、半導体二次元電子系から量子ドットへの超高速共鳴スピントンネル効果については、スピントンネル時のスピン分極率や注入速度に対する注入スピン密度依存性の詳細を研究し、量子ドットにおける離散的状態密度により生じるスピンのパウリブロッキング現象が注入時のスピン分極率やスピン注入ダイナミクスに与える影響について明らかにしていく。さらに、このスピントンネル効果に対して、次元性の異なる電子系の共鳴現象の寄与をより詳細に明らかにするため、ポテンシャルを外部から精密に制御できる電界印加型素子構造を作製していく。 以上の進捗を踏まえながら、今まで得た知見を元にして、量子ドットへの高い電子スピン注入効率特性を持つ量子ドットスピンレーザー素子構造を設計し実際に作製していく。
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