2011 Fiscal Year Annual Research Report
地球環境保全を目指した海洋生物における石灰化の制御機構の解明
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22228006
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
長澤 寛道 東京大学, 農学生命科学研究科, 教授 (60134508)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小暮 敏博 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (50282728)
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Keywords | 海洋生物 / 石灰化 / 地球環境保全 / 有機無機相互作用 / 結晶多形 / 基質タンパク質 / バイオミネラリゼーション / その場観察 |
Research Abstract |
今年度は、昨年度に引き続き数種のバイオミネラルを対象に有機基質と炭酸カルシウムの相互作用を解析した。 円石藻のココリスの有機基板に強固に結合しているタンパク質の部分配列を基にcDNAをクローニングし、全予想配列を得た。このタンパク質の機能を明らかにするために組換え体の作製中である。また、ノックダウン実験による機能解明についてもその方法から検討してきたが、未だに確立できていない。軟体動物アコヤガイの真珠層から抽出同定したPifタンパク質の類似の分子を数種の近縁種から探索したした結果、cDNAを取得できたが、近年の種ほど配列の類似性が高いことが分かった。また、真珠光沢を有さない変異体の貝殻成分を調べた結果、石灰化に重要な役割を果たしている炭酸脱水酵素が分解されていることが分かったが、これが原因かどうかは今後の課題である。さらに、アコヤガイ幼生の貝殻形成を結晶多形の観点から解析した。アザミサンゴの骨格の可溶性タンパク質として唯一同定されている基質タンパク質galaxinの機能解析のために様々な長さの組換え体を発現した。予備実験の結果、galaxinはキチンおよび炭酸カルシウム結晶に結合することが分かった。金魚のウロコの石灰化組織から同定したリン酸化タンパク質GSP-37はリン酸化がリン酸カルシウム結合に極めて重要であることが分かった。また、RT-PCRでの発現解析からGSP-37は主要な石灰化組織である骨や歯には発現していないと推定された。 以上の個々の石灰化組織から得られた結果を総合して、石灰化の共通のメカニズムを有機基質の所在と機能を基に初めてモデルを提出した。このモデルの確かさについては、さらに精査していく必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、海洋生物における石灰化の制御機構の解明である。石灰化組織には炭酸カルシウムあるいはリン酸カルシウムのような無機鉱物のほかに微量の有機物が含まれ、この有機物が石灰化を制御していると考えられてきた。われわれは、その機能的な有機物を実際石灰化組織から抽出精製し、構造を明らかにするとともに実験を通してその機能を推定してきた。その結果、有機物には低分子から高分子まで多様な分子が含まれ、また石灰化組織内の存在様式も多様であることを様々な石灰化生物に由来する石灰化組織を用いて明らかにしてきた。それらの情報を総合して、石灰化機構の簡単なモデルを提出した。個々の材料に関する解析は進展の度合いが異なるが、そこから得られる結果は最終的にはモデルの精密化に役立つと考えられる。ただし、モデルは共通メカニズムの概要であり、個々のケースでの特殊性が存在し、それらをより詳細に明らかにすることも本研究の目的である。以上の2つの意味で、目的をほぼ達成していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
提出しているモデルの精密化は一つの大きな目標であるが、そのためには個々の材料を用いた石灰化の解析が重要である。あと1年であることを考えると、以下の4つのことに特に集中して実験を行いたい。 第一は、円石藻に対する機能解析のための遺伝子導入法の確立である。これまでだれも成功していないし、今後円石藻類のタンパク質の機能を解析するうえで必須の手段となることが予想される。われわれは一つ一つの関門を乗り越えてきてようやく完成にたどりつきつつある。第二は、アザミサンゴの骨格タンパク質のうち不溶性のタンパク質の同定である。これまでサンゴからはわずか1種類の基質タンパク質しか得られていない。海洋生物における石灰化のうち熱帯・亜熱帯域の沿岸での石灰化の主たる担い手はサンゴであるが、その石灰化の機構に関する知識はほとんどないのが現状である。われわれは、不溶性で界面活性剤を用いて初めて可溶化されてくる2種類のタンパク質をSDS-PAGE上で確認しているので、それらの構造情報を得たい。機能解析も行いたいが、十分な時間は残されていないと思われる。第三は、アコヤガイを用いた真珠養殖において真珠形成に先立って移植した外套膜片によって真珠袋が形成されるが、その機構は極めて重要であるにもかかわらず、ほとんどわかっていない。真珠袋形成およびその石灰化機構を解明するためにin vitroで外套膜片を培養することによって新たな情報を得たい。第四は、結晶多形制御のメカニズムである。無機塩組成、特にマグネシウム存在下で、あるいは有機基質存在下での結晶多形誘導を鉱物学的手段も併用して解明したい。
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