2011 Fiscal Year Annual Research Report
単分子磁石に対する原子空間分解能を持つスピン状態測定と操作
Project/Area Number |
22241026
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
米田 忠弘 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (30312234)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
加藤 恵一 東北大学, 理学研究科, 助教 (80374742)
濱田 幾太郎 東北大学, 原子分子材料科学高等研究機構, 助教 (80419465)
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Keywords | 単一分子磁石 / 分子キラル / 自己組織化 / 近藤温度 / 走査型トンネル顕微鏡 / 走査型トンネル分光 |
Research Abstract |
単一分子磁石は分子素子材料としても注目される。磁石としての高い転移温度の合成が報告される一方で、表面薄膜形成時のスピンの挙動はほとんど明らかにされていない。本研究では、そのスピンの挙動を、分子吸着構造・電子状態を明らかにした上で、スピン計測、分子合成と、理論シュミレーション班が一体となって解明しようとする。 平成23年度は、フタロシアニンの4つのフェニル端をナフタレン基に置き換えた分子を合成し、そのSTMを用いたスピン観察と、理論計算によるスピンのシミュレーションを行った。合成した分子はナフタロシアニンとフタロシアニンを上層と下層にもち、中間にテルビウム原子を挟んだ2層構造を持っている(以下TbNPcPcと略記)。真空中ではどちらを上向きにしても等価な分子であるが、表面に吸着した場合には表面キラルとなり異なった性質を発揮する可能性がある。分子のキラル特性は分子の自己組織家的な集合体を形成するときの重要な道具となっており、今回の分子においてもキラルが分子集合体の形成にどのような影響を持つか、あるいはそれが分子の磁性にどのような影響を持つかが注目される。TbNPcPcが表面に吸着したとき分子が持つスピン由来の近藤効果が、トンネルスペクトルに明瞭に観察された。近藤ピークの幅より導き出される近藤温度はスピンと伝導電子の相互作用の強さを反映するものとして重要なパラメターであるが、この分子においてはNPcあるいはPcを上面にするかで近藤温度に明瞭な差が見られた。またNPcが上を向いた分子のみで形成される一次元鎖構造、NPcとPcが交互に並んだ2次元構造など多彩な自己組織化構造が見られたが、いずれも近藤ピークに差が見られた。それらは同時に理論計算によっても裏付けられた。これはキラル制御によってスピンを自由に操作した最初の例と考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
有機分子に特有なラジカル由来のスピンは今後、分子スピントロニクスにおいて重要なパーツとなると考えられるが、それを原子の分解能で報告した例が極めて少なく、かつ本研究で、パイ電子が作る近藤状態が明らかにされたことは、従来金属・半導体が主とした研究対象であった近藤共鳴の研究にも重要であると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、さらに分子の特徴を生かした、より高いブロッキング温度を持った単一分子磁石分子の合成と、実験においては整備を進めた希釈冷凍機を用いた1K以下での低温STM]観察を用いたトンネル電流分光手法を用いて、単一分子磁石の中心金属およびリガンドからの磁性への寄与を分離しその磁性メカニズムや制御法のより詳細な知見を得る実験を予定している。
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Research Products
(15 results)