2012 Fiscal Year Annual Research Report
近現代世界の自画像形成に作用する《集合的記憶》の学際的研究
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22242004
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
岩崎 稔 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (10201948)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
八尾師 誠 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (20172926)
今井 昭夫 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (20203284)
篠原 琢 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (20251564)
金井 光太朗 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (40143523)
小田原 琳 東京外国語大学, 外国語学部, 研究員 (70466910)
土田 環 映画専門大学院大学, 映画プロデュース研究科, 助教 (70573658)
米谷 匡史 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 准教授 (80251312)
工藤 光一 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (80255950)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 哲学 / 思想史 / 脱中心化 / 歴史 / 文化史 / 集合的記憶 / 東アジア / 想起 |
Research Abstract |
平成24年度は、前年度の研究成果を元に、現地調査、資料収集、シンポジウム、ワークショップ、研究会を開催した。 1.5月24日~25日にかけて、東京外国語大学にて、国際シンポジウム「東アジア出版人会議「東アジア地図の文化地図の共有に向けて―感情記憶をどのように描くか」を主催した。韓国、中国、香港および日本の出版人たちを一堂に会して、「東アジア」における集合的記憶を共有する感情という点から議論し、共通理解を得るための足場を構築しようとした。 2.11月26日、ニューヨークのコロンビア大においてEast Asian Studies Workshop「日本戦後史のメモリースタディーズからの再検討―50年代文化に照準を合わせて」を共催し、日本から渡辺直紀(武蔵大)を派遣した。 3.12月20日~21日、早稲田大において「日本近現代思想史を書き直す「戦後日本というアムネジア」と題する国際シンポジウムを共催した。ドイツ・ライプチヒ大からSteffi Richter、アメリカ・コーネル大から酒井直樹を招聘し、戦後日本における精神史を記憶と想起という観点から議論し、「集合的記憶」理論の構築のための足がかりを得た。 4.2013年3月24日、「メモリースタディーズの最前線」と題するワークショップを開催し、新潟大から松本彰を、武蔵大から香川檀を招聘し、想起と記念碑についての議論をおこなった。 5.2013年3月27日~31日にかけて、鈴木珠美(東京外大海外事情研究所研究員)および唐川恵美子(東京外大博士前期課程)を韓国に派遣し、想起および集合的記憶の研究のための資料収集と調査を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度は、「集合的記憶」の動態解明の一手段として考案された多様な地域(中国、韓国、台湾、香港、日本、アメリカ合衆国、ドイツ)と時代(近現代)における集合的記憶の具体的事例を「自画像」形成という視点から読み解く作業が行われた。具体的には、1.東アジアの公共空間における歴史認識と感情記憶の問題の相克、厳しい外交関係や領土問題を背景にした民主主義や公共性の構築をめぐる基礎概念の共有、それらの手法における差異の明示化、対立と対話を通じた読書共同体の構築といった観点から、原爆と原子力発電、植民地主義と脱植民地化、韓流文化を通じた東アジア大衆文化の構築といった論点を議論した。それらの集合的記憶の再叙述が各国でなされることにより、集合的記憶が脱中心化機能を有することが明らかになるはずである。2.アメリカ合衆国と日本という観点から、原爆と原子力発電についての証言をもとにして、「集合的記憶」の形成と受容を分析した。3.ドイツ語圏の記念碑と歌を土台にして、19世紀から20世紀にかけての国家や社会・共同体における「集合的記憶」について議論・分析した。そこに示される記憶が繰り返し書き直されるなかで、「集合的記憶」が一方では、たとえば「国民的統一」の際に排他的側面を示し、他方では中央に対する周辺地域統合のために、共和主義が唱えられるといった脱中心化の機能を果たしていたことが明らかになった。4.ホロコーストの記憶の維持と想起を芸術作品を通じて行うことの意味を「集合的記憶」という観点から問うた。感情を超えて死者と邂逅する場としての芸術作品を通して形成される「集合的記憶」も鑑賞者を選別/拡大する機能があることが判明した。 これらの事例研究により、集合的記憶が排他的側面と脱中心化する側面を持つという二機能理論はその有効性を高めていると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
1.集合的記憶における二機能理論の有効性をより高めるために、地域と対象をこれまでより拡大し、事例収集を行う。 (1)地域をヨーロッパに広げる。(2)映画という媒体を通して、様々な事件を想起し/させることと「自画像」形成の連関性の解明およびその再叙述を行う。具体的にはフランスにおける「スカーフ問題」を題材にした映画他をとりあげ、映画作成、撮影、上映、観客、ネット等の大衆メディアの拡大を通じて形成される集合的記憶をいかにして「自画像」形成に結びつけるか、といった点を解明する。 (2)視点を「民衆」に広げる。近現代における「民衆蜂起」あるいは社会における「民衆」意識と「自画像」形成の可能性について議論し、集合的記憶との接続を考察する。特に日本、アメリカ合衆国および韓国における民衆史の研究者たちの協力を得てこの作業を行う。 (3)ジェンダーという視角から、集合的記憶における「自画像」形成の可能性を追究し、事例を収集する。 2.これまで行ってきた東アジアにおける集合的記憶に関する事例収集を継続して行う。 上記の事例収集および分析から、これまでに構築した集合的記憶が排他的側面と脱中心的機能を果たすという二機能理論を客観化し、「自画像」形成への実効性を問うていく。その目的を達成するために、今後も韓国、フランス、アメリカ合衆国等の研究者と交流を深めながら、知識の蓄積と理論の客観化を行っていく。
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Research Products
(10 results)