2013 Fiscal Year Annual Research Report
近現代世界の自画像形成に作用する《集合的記憶》の学際的研究
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22242004
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
岩崎 稔 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (10201948)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
八尾師 誠 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (20172926)
今井 昭夫 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (20203284)
篠原 琢 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (20251564)
金井 光太朗 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (40143523)
小田原 琳 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 研究員 (70466910)
土田 環 日本映画大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (70573658)
米谷 匡史 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 准教授 (80251312)
工藤 光一 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (80255950)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 集合的記憶 / 思想 / 映画 / 身体表現 / 想起 / 哲学 / 東アジア / イコノクラスム |
Research Abstract |
平成25年度は、前年度に引き続き、シンポジウム、ワークショップ、講演会を開催した。1.5月11日国際ワークショップ「スカーフ論争 植民地主義によるジェンダー差別か、共生のための原理か」を開催し、フランス社会における移民労働者への差別に関する記憶について議論した。ピエール・テヴァニアン(フランス)徐阿貴(お茶ノ水女子大)菊池恵介(同志社大)森千香子(一橋大)を招聘した。2.5月17日~20日ワークショップ「朝鮮女性史から東アジア記憶の場まで」を開催した。鄭智泳(韓国・梨花女子大)を招聘し、ジェンダー史と「記憶の場」について議論した。3.7月10日~7月15日オランダからパフォーマンスアーティスト岩岡傑を招聘し、「パフォーマンスを通じて考えるHIBAKUの記憶-アート、日常、そして記憶すること-」を開催し、被爆の記憶を身体表現することの意味を問うた。4.10月16日~22日日本から安丸良夫他を合衆国に派遣し、East Asian Studies Workshop(ニューヨーク大学)において「戦後日本における「民衆」の感情記憶」、Modern Japan Workshop 2013 in fall(コロンビア大学)において「民衆史における記憶と情動」と題する講演を行い、民衆と記憶の関係について議論した。5.10月9日ザルメン・ムロテックを招聘し、「ディアスポラ音楽の現在 ホロコーストの記憶とイディッシュ文化」と題する講演会を開催し、音楽に表象される記憶について議論した。6.11月29日~12月4日林泰勲(韓国・聖公会大学)を招聘した。ワークショップ「越境するメディアと記憶-アジアへのまなざし」を開催し、メディアと記憶の関連性を議論した。2014年3月10日ワークショップ「集合的記憶とイコノクラスム-イメージの生成と破壊をめぐって」を開催し、集合的記憶と芸術についての議論を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度は新しい「集合的記憶」論の構築に向けて、特に民衆史、芸術文化、ジェンダーという視点から「集合的記憶」を読み解く作業を行った。具体的にいうと、1.日本民衆史の知見を得て、「民衆」の感情がいかにして記録され、また記憶されてきたのかについての議論が深まった。そこから、歴史叙述には支配的な集合的記憶とは異なる集合的記憶を構築する蓋然性があることが確認された。2.音楽という文化的営為あるいはパフォーマンスという身体表現に刻まれた記憶からも、社会一般の常識を覆す集合的記憶が構築され得ることが判明した。3.映画という文化的媒体を通して表現されたに記憶は、特にノンフィクションの場合、脚本家や監督の意図とは別次元で派生する集合的記憶が存在することがわかってきた。すなわち、登場人物たちの行為・発言とそれをみる観客との間に生み出される仮想空間的「集合的記憶」の場である。その「集合的記憶」は、時として映画作成者たちの当初の意図を破壊する異議申し立てにも発展する場合があることがわかった。4.様々な芸術作品として作り出されたものを破壊することの意味およびその発展可能性を問うことで、そこからも集合的記憶の場が作られることを確認した。 これらの事例研究により、本科研の大きなテーマである「脱中心的」な「集合的記憶」論構築の足がかりを得たと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
1.「集合的記憶」論の、特に「脱中心性」の存在を確かめ、さらに確かなものにするために、これまで主として行ってきた東アジアにおける記憶の場とヨーロッパであまり扱われてこなかった地域における記憶の場とを比較する。そして、ヨーロッパにおける「日本」像の構築とそこから生み出されるヨーロッパ社会の集合的記憶を、日本における「ヨーロッパ」像の構築およびその「集合的記憶」とを比較することで、「脱中心化」された新たな「集合的記憶」の存在を提示したい。 2.時間軸を広げ、第2次世界大戦後から冷戦の時代にかけての「集合的記憶」を扱い、そこから得られた自画像形成を検討する。その時代の「集合的記憶」には、現在的な政治性も含まれているため、当時の記憶を現時点で想起することの意味を問うことになる。その際、既存のナショナル・メモリー構築のために利用される「集合的記憶」とは異なる視点、すなわち、むしろそれらを破壊する方向性も含む「集合的記憶」が存在すること、そしてそこから自画像形成がなされる契機を見いだしていく。 3.1および2に加えて、これまで実施してきた四年間の本研究で蓄積されてきた事例研究を総括し、近現代世界の自画像形成に作用した「集合的記憶」を問うことで生み出される新たな「集合的記憶論」を構築していく。
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Research Products
(16 results)