2011 Fiscal Year Annual Research Report
極低温LEED・STMを用いた2次元量子流体・固体研究
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22244042
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
福山 寛 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (00181298)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松井 朋裕 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (40466793)
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Keywords | 低温物性 / 表面構造解析 / 走査トンネル分光 / 単原子膜 / グラフェン |
Research Abstract |
グラファイト表面に物理吸着したヘリウム3(3He)およびヘリウム4(4He)の1~3層目の単原子層の相図を実験的に探った。0.1 < T < 4 Kで2層目4Heの熱容量と蒸気圧測定を行い、4/7相と考えられる低密度整合相の存在を強く示唆する結果を得た。4/7相は「超固体現象」発見の期待が集まる低密度量子固体であり、最近の第一原理計算では相自体の安定性が否定されていた。次に、3層目の3Heでは2 < T < 80 mKの熱容量測定から気液相分離現象を見出した。これは、これまでの理論計算の再検討を促す可能性のある重要な結果である。観測された2次元液体3Heの臨界密度は0.9 nm-2程度と非常に低密度である。 グラファイト表面に物理吸着したクリプトン(Kr)の極低温STM/STS観測を行った。単原子層Kr固体の原子配列を初めて実空間観測することに成功し、1/3整合相の吸着原子サイトがグラファイト・ハニカム格子の中心に一致することを確認した。これは、グラファイト上のすべての吸着子を通じて初めての実空間確認と思われる。Kr固体のナノアイランド上で、バンドギャップ形成とも考えられる表面電子状態密度の大きなギャップ構造を観測した。しかし、アイランド以外のグラファイト表面でも同様のデータが得られており、現在、その原因を究明中である。極低温LEED開発のための大部分の設計を終了した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
グラファイト表面に物理吸着した1および2 層目の3Heと4Heの状態相図、そしてグラファイト表面の擬2次元電子系の電子状態変化を、(1)原子レベルの構造・分光観測と、(2)熱容量や蒸気圧の熱力学的測定、の両面から決定するという当初の研究目的に照らして、(1)は当初の予想より若干進捗が遅れ、(2)は当初の期待以上の成果が得られた。 (1)のうちSTM/STS実験はほぼ順調に進み、少なくともグラファイト最表面のバンドギャップ形成の当否は早晩、決着がつく予定である。他方、極低温LEED装置の開発は少々遅れている。 (2)については、期待以上の成果が得られた。特に、2層目4Heの低密度整合相(4/7相)の存在が実験的にほぼ確実になったことは、今後、超固体現象の発見に発展する可能性を秘めた重要な成果である。ここでは、単結晶子サイズが従来のグラフォイル基板より10倍大きいZYXグラファイト基板を低温吸着実験に使用できることを実証したことが大きく役立っている。さらに、3層目3Heの自己凝集現象の発見は、理論的に予測されていない2次元3Heの液化現象の可能性もあり、やはり基礎学問上、重要な成果である。
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Strategy for Future Research Activity |
グラファイト表面上2層目4Heの状態相図を熱容量と蒸気圧の測定から調べる過程で、低密度整合固相(4/7相)の存在を強く示唆する結果が得られた。これを確証するため、さらに高精度の測定を実施する。また、この相の超固体性という画期的な現象を10 mKまでのねじれ振り子測定から確認するための実験装置の設計を進める。その際、ZYX基板を用いることで、従来のねじれ振り子実験では不明瞭だった、超流動応答が観測される正確な密度域の同定をめざす。また、グラファイト上3Heの3層目の気液相転移が1~2層目ではどのように観測されるかについて、まずはグラフォイル基板を使って実験を進める。以上は、本研究の目的に照らしても最優先すべき重要課題であるので、研究グループの人的・資金的な資源を集中して実施する。 原子・分子吸着によるグラファイト表面でのバンドギャップ形成に関しては、より再現性の高いSTSデータ取得を目指す。併せて、グラフェン試料を使った伝導度測定のための実験装置も準備する。極低温LEEDの開発は、最終的な設計を完了し、光学系と電子ビーム導入弁の低温動作という要素技術の実証実験を準備する。
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Research Products
(21 results)